阪神は「日本生命セ・パ交流戦」のソフトバンク戦で延長12回の激闘の末、引き分けた。矢野燿大監督(50)は4回、就任後初のスクイズを北條に命じて決めさせるなど小技も駆使して主導権を握った。だが9回に先発メッセンジャーがあと1人から同点とされた。だがリリーフ陣が踏ん張り、ドローに持ち込んだ。

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絶体絶命のピンチを乗り切った。2-2の延長12回。5番手ドリスがまさかの事態を招く。先頭グラシアルの内野安打から、けん制悪送球と暴投で無死三塁と土俵際まで追い込まれた。ただ、そこから真砂を空振り三振、松田宣、明石を打ち取って引き分けドローに持ち込んだ。

4時間42分の激闘。9回にはあと1アウトで勝利という場面で好投のメッセンジャーが同点打を浴びるなど、悔しさが残る試合。「痛恨」の2文字も頭に浮かぶ。だが、試合後にインタビュー室に現れた矢野監督は違った。吹っ切れたように笑顔になった。

「結果勝ちや、もう。そう思うわ。そう思うことにする! ノーアウト三塁でミス、ミスでしょ? あそこから引き分けになったんだから」

執念の継投に、執念の攻撃。矢野野球を試合序盤から存分に見せつけた。高山の適時打で1点を先制した直後の4回1死一、三塁だ。9番北條がガッと目を見開く。勝負は2球目だった。投球と同時に三塁走者梅野が本塁へ走りだす。バットを寝かせてきっちりと転がした。ソフトバンク先発ミランダが本塁に送球するもセーフ。今季初のスクイズ成功に三塁側ベンチも跳び上がった。

「あの場面はソツなくというか。無駄なくというか。いい形で点が取れた」

昨季2軍監督を務めた指揮官は、「超積極野球」を掲げてファーム日本一を成し遂げた。矢野野球を象徴するような得点シーンに、指揮官も手をたたいて喜んだ。昨年までの交流戦で、対ソフトバンクは23勝30敗3分けのカード別最低勝率。ここ一番でスペシャルな小技を繰り出して加点し、鷹をあと一歩まで追い詰めた。

昨季は北條も高山も思うような結果が残せず、2軍で汗を流した「矢野チルドレン」だ。そんな2人の躍動。右ふくらはぎ筋挫傷から戦列に復帰したベテラン福留は、最後までグラウンドに立ち続けた。そしてブルペン陣の必死のリレー。「勝ちやろう。そう思って明日から戦いたい」。指揮官の思いを今日12日の第2ラウンドにぶつける。【桝井聡】