長いトンネルを抜けた。DeNAが、4月19日以来の5割復帰を果たし、単独3位に浮上した。ラミレス監督が「ローテーションの中で、最も安定している1人」と絶大な信頼を置くドラフト1位上茶谷大河投手(22)が、阪神との同率3位対決で6回途中無失点。16年今永らに並ぶ球団新人タイ記録の自身5連勝で5勝目をマークした。

1点リードの5回2死満塁で糸原をフォークのようなチェンジアップで空振り三振。チームの急上昇とは、反比例するような落差で、試合の行方を左右する局面を切り抜けた。この渾身(こんしん)の変化球の原動力には、父から受け継ぐ「指の強さ」があった。

ボールの縫い目を完璧にキャッチした。強く握りしめられたチェンジアップは打者の手元でギュイーンと落ちた。指のかかりが半端ない。糸原も完全にタイミングを外され、腰を落とした。「三振を取りたいところで取れた。あそこは気持ちで取りにいきました」。振り逃げで招いた満塁のピンチ。この回4つ目の三振を奪い、拳を突き上げた。

上茶谷家の伝統である“つかむ”能力がある。幼少期、自宅で夕食を取っていた時のこと。ダイニングテーブルの上空に、蚊が舞った。目で追うのも、やっとなスピード。父は何と、左手の親指と人さし指でキャッチした。人並み外れた集中力と指の力があって成せる技。両手でたたくわけでもなく、もちろん新聞紙でたたくわけでもなく「どや」と左手の2本の指を見せつけた。その姿に憧れたタイガ少年。「めちゃくちゃ格好良かったですね」と親譲りの“秘技”を受け継ぎ、チェンジアップという武器を手に入れた。

最大11あった借金を完済したチームとともに、さらに上昇気流に乗る。「今永さんみたいに長いイニングを投げないとこれから先は勝てない」と課題を克服し、たくさんの勝利をキャッチしていく。【栗田尚樹】