「この世の終わりみたいな顔をしていたと思います」。楽天から巨人にトレード移籍が決まった古川侑利投手(23)は半年ほど前、どん底にいた。

例年以上に投げ込んだオフを終えて仙台へ戻ると、右肩にかすかな引っかかりを覚えた。程なく解消されたが、本来のボールが全く投げられない。キャンプで絶好調だったエース則本昂から「今年、ホンマに優勝したい。お前も頼むで!」とハッパをかけられても、威勢よく返せない自分がもどかしかった。

開幕ローテ入りを逃し、4月7日のイースタン・リーグ巨人戦では6回1/3を9安打2失点。数字を見ればまずまずで、体は元気。ただ「真っすぐが、130キロくらいしか出てなかったんです」。肩の開きを抑えるフォーム修正に地道に取り組み、4月下旬に1軍へ上がってきた頃には、140キロ台後半の力強い直球が戻ってきていた。

疲労回復のルーティンである交代浴の「お供」は漫画「キングダム」。実写化された映画もすぐに見にいくほどお気に入りの作品の魅力について「作者の方が佐賀出身なんですよ」と熱い郷土愛も交えて丁寧に教えてくれるサービス精神旺盛な男。「『人を助ける』意味があると聞かされたことがあります」という「侑」の字の通り、中学時代には、踏切内で座り込んでいた女性を母と2人で救出し、警察から感謝状を贈られた心優しき青年でもある。

松井秀喜に憧れ、巨人ファンだった少年時代。そのユニホームに袖を通し、飛躍する。【楽天担当=亀山泰宏】