夢じゃない! 阪神が今季初の6連勝で2年ぶり、奇跡のクライマックス・シリーズ(CS)進出を決めた。今季最終戦の中日戦(甲子園)は、今季限りで退団が決まっている鳥谷敬内野手(38)と1日でも長くを合言葉に快勝。負ければBクラス終戦の崖っぷちから勝ち続け、3位広島を逆転した。矢野燿大監督(50)は全身でガッツポーズ連発。去りゆく鳥谷を日本シリーズまでタテジマでプレーさせる夢がつながった。

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歓喜の輪で鳥谷の笑顔が映えた。ナインがマウンドに集まってハイタッチしていく。藤川、大山、福留、梅野…。阪神が誰も信じられない奇跡を起こした。逆転でのCS進出。矢野監督に笑顔はなく「今日、勝つか負けるかでは、大きな差があるところで勝ち切れた意味、価値はすごくある」と胸をなでおろした。

今季限りでの退団が決まっている鳥谷と1試合でも長く戦う-。その一心でナインは一丸になった。矢野監督も同じ思いだ。7回の代打を終えると、慣れ親しんだ遊撃守備へ。勝利の瞬間まで、グラウンドに立ち続けた。指揮官は「このメンバーで戦えるのは、いつもあることじゃない。やっぱり続けていきたい」と話した。波及効果で、負ければレギュラーシーズン敗退の大一番をしのぎきった。

攻めの継投で今季初の6連勝。貯金1で公式戦を終えた。「ウチは現状はまだ強いチームとは言えない。だからこそ粘りっこく。内面のものが大事になる」。成長途上のチームだからこそ、何より「心」を重んじる。敗戦すればCSへの道が消える28日DeNA戦。指揮官は、試合前ミーティングでナインの輪に進み出て声を張り上げた。

「横田はあきらめない気持ちが、ああいうプレーになった。俺らも最後まであきらめないでやろう」

その2日前だ。26日は練習後に1軍ナインが2軍拠点の鳴尾浜に駆けつけた。脳腫瘍から復活を目指し、志半ばでユニホームを脱ぐ横田の引退試合。中堅から矢のような本塁返球で二塁走者を刺した。横田自身も驚くバックホーム。見守る選手の熱い血はたぎり、横田とともにCSを決めた。

開幕から意識的にガッツポーズを繰り返した。周囲から批判されても「俺は止めない」と信念を貫いた。交流戦明けの6月29日中日戦。ナゴヤドームでナインに問うた。「女性がダイエットできたと一番、感じるのはいつか分かるか?」。口を突いたのは女性の話題だ。矢野監督は言葉を継ぐ。「結婚前の女性はやせたいというよりウエディングドレスを着たい、周りのみんなに喜んでもらいたいと思うから頑張れる」。理想の自分を思い描き続けること-。意表を突く例を挙げて言葉に信念を宿らせた。

強く、たくましく、土壇場の「大まくり」を見せ、143試合目でAクラス入り。2年ぶりのCSだ。指揮官は強気に言い放つ。「日本シリーズで帰ってきたらいいだけのこと」。まだまだ、背番号1を見納めにしない。【酒井俊作】