今日こそ勝って、下克上日本一の夢をつなぐぞ! 阪神福留孝介外野手(42)が、土壇場同点弾でナインを勇気づけた。

1点を追う9回。ゲームセットまであと1死から夢を見させた。試合は乙坂のサヨナラ2ランで敗れたが、プレーオフ、CS史上2位の年長弾は、最終決戦となる7日のファーストステージ第3戦への大きな活力。敗れても爪痕を残した虎が、巨人への挑戦権を勝ち取りにいく。

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百戦錬磨の大ベテランが青く染まったハマスタを沈黙させた。3-4で迎えた9回。DeNA守護神山崎の3球目、150キロを一閃(いっせん)。打球はきれいな弧を描いて右翼席中段に突き刺さった。無表情のままダイヤモンドを一周した福留は「狙っていたというより、次に次に(つなごうと)思っていた」とコメント。8回から登板の山崎に完全に抑えられ、敗戦まで1死だった瀕死(ひんし)の戦況での劇的弾。ベテランの執念が、沈んだベンチを一気に活気づかせた。

反撃ムードを作ったのも職人のバットだった。0-3の5回。北條の適時二塁打で2点差に迫ると、なお、2死三塁の場面で右前に適時打を運んで1点差。今CS8打席目の初ヒットで、浜口をマウンドから引きずり下ろした。7回にはパットンの抜けたボールが背中に直撃したが、痛みを表情に出さずに一塁へ。試合後も「試合に出ているから大丈夫なんじゃないですか」と涼しい表情で話した。

「試合中に動いているボールは1つしかないんだから」。そう話す福留がグラウンドで気を緩めることはない。多くの修羅場をくぐり抜けた男は、ゲームセットの瞬間まで集中力を保ち続ける。そして、絶対に諦めない。だからこそ、ベンチでも若手選手にゲキを飛ばし続ける。この日も表情を崩したのは試合後のバスに乗る直前。解説で訪れたPL学園の大先輩・立浪和義氏から「すごかったなぁ」と、声を掛けられてようやく表情が和らいだ。

最後の最後までファイティングポーズを取り続けたベテランを矢野監督も大絶賛した。「すごいでしょ? さすがの経験というか、経験値と意地というか、そういうので孝介が打ってくれた」。試合はサヨナラ弾で逆王手をかけられたが、福留は悲観せず前を向く。「明日は何があっても最後。決着がつく。自分たちの準備をして自分たちの野球をやるだけ」と力を込めた。頼れる42歳がいる。最後の瞬間まで死力を尽くし、東京ドームに乗り込む覚悟だ。【桝井聡】