今季で退任する慶大(東京6大学)の大久保秀昭監督(50)が有終の美を飾った。高橋佑樹投手(4年=川越東)が7回までパーフェクトの3安打完封。郡司裕也捕手(4年=仙台育英)が先制2ランを含む2安打4打点。関大(関西5連盟第1)を圧倒し、00年以来19年ぶり4度目の優勝を遂げた。高校の部は、中京大中京(東海・愛知)が高崎健康福祉大高崎(関東・群馬)に競り勝ち初優勝。東海地区には、来春センバツ甲子園で「神宮大会枠」の1校が追加される。

頂点に上り詰めた大久保監督は、ベンチ前で1人1人に「ありがとう」と声をかけて回った。両手で握手し、真っすぐ目を見て。「1年間で最高の試合をしよう」と送り出した教え子たちが躍動。「できすぎ」と認める完勝で、5年にわたった指揮の公式戦ラストゲームを締めくくった。

プロ野球コーチから新日本石油ENEOS(現JX-ENEOS)の監督に転身。都市対抗を3度制した名将も、学生野球は我慢のスタートだった。マネジャーに「体調不良」とさえ伝えれば簡単に休めていた。本当は「飲み過ぎ」と分かっていても、あえて静観した。2年目から口を出し、3年目の秋にリーグ優勝。4年目で、入学時から見た選手たちが3連覇目前まで迫った。集大成の5年目、ついに日本一をつかんだ。

信念がある。「預かっている身として、顔が見えない部員はつくりたくない。誰もがチームに役立っていると思えるように」。163人の大所帯を細やかにまとめた。朝のあいさつはもちろん、練習で上達が見えれば必ず言葉で伝えた。「どちらかというと、レギュラーじゃない子にね」。手抜きは厳禁。フライを打ち上げ、のろのろ走った選手を怒鳴りあげた。

プロ、社会人、学生と指導してきたが「技量の違いはあるけど、野球と考えれば、ひとくくり。いいチームを作る力があればアマからプロに行く人(指導者)も増えるかも知れない」とみる。元プロの気負いもない。「プロが常に一番とは感じない。学生は、かわいいよ」と野球を教える喜びだけがある。近年低迷する名門の再建を託され、来年から再びJX-ENEOSを率いる。

表彰式を終え、待ちこがれた瞬間。「ちゃんと、やれよー!」。応援団が見守る前で、宙に舞った。「50歳で、50回大会で、5度胴上げ。幸せだなあ」。母校を率いた年数と同じだけ舞った。涙は乾き、優しい顔になった。【古川真弥】