野球殿堂博物館は3日、「2020年野球殿堂入り候補者」を発表し、特別表彰の候補に作曲家の古関裕而氏(享年80)ら3人を新たに加えた。古関氏は「栄冠は君に輝く」「六甲おろし」「闘魂こめて」など、数々の野球応援歌を作曲。来年度前期の連続テレビ小説「エール」の主人公のモデルにもなっている。選考は球界関係者による投票で行われ、来年1月14日、競技者表彰とともに受賞者が発表される。

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高校野球ファンも、阪神ファンも、巨人ファンも、いや、全ての野球ファンが知っている曲ばかり。昭和音楽史を代表する作曲家の古関氏は生涯で5000曲ほどを残したと言われる。野球応援歌も多く、功績が評価され候補者入り。長男の正裕氏(73)は都内自宅で一報を知ると、しみじみ語った。「父は運動音痴で、全くスポーツをしなかった。野球殿堂と聞いて、きっと、びっくりしてるでしょうね」。

1909年(明42)、福島市の呉服店「喜多三(きたさん)」に生まれた。「大事に、大事に育てられ、スポーツなんて危ないとやらせてもらえなかったようです」と正裕氏。昭和の親子には定番だったキャッチボールの思い出はない。ただ、家族旅行で温泉に行った時だった。「ピンポンの相手をしてくれたんですけど、僕の方が勝っちゃって。つまんなかったですねえ」と懐かしんだ。

時局がら、戦前は軍歌も作ったが、戦後は聴く人に元気を与える曲が中心だった。「君の名は」「鐘の鳴る丘」などヒット歌謡曲も多い。正裕氏が一番好きな曲は、夏の甲子園歌「栄冠は君に輝く」だ。「甲子園で皆さんが歌ってくれているのを見て。ああ、いい曲だなあと」。

バンド活動にもいそしんだ学生時代、実は、父の曲よりもビートルズの方が好きだったという。父の曲に目が向き始めたのは、会社を退職してから。生誕100周年の催しに呼ばれた。「大事に受け継いでくださっている。父の曲、やってみようかな」。友人と音楽ユニット「喜多三」を結成。もちろん、父の生家からとった。キーボード担当で、今では全国から声がかかる。明日は母金子(きんこ)さんの故郷・愛知県豊橋市でライブを行う。

温厚な父だった。しかられた記憶もない。高校の時「音大に行こうかな」と言ったら、うれしそうに「これで勉強したらいい」と自分が使った教科書を渡してくれた。その時は音楽には進まなかったが、半世紀がたった今、父の曲を歌い継いでいる。ああ、栄冠は君に輝く♪ 【古川真弥】

◆古関裕而(こせき・ゆうじ=本名・古関勇治)1909年(明42)福島県福島市生まれ。30年、日本コロムビアに作曲家として入社。戦前は「露営の歌」「暁に祈る」など。47年以降は作詞家・菊田一夫氏とのコンビで放送作品に注力。NHKラジオ・ドラマ「鐘の鳴る丘」「さくらんぼ大将」「君の名は」などの主題歌を発表。64年東京五輪の選手入場行進曲「オリンピック・マーチ」も作曲した。作曲作品総数は約5000。69年には紫綬褒章を受章。89年8月18日、脳梗塞のため死去。80歳。