さあ、大砲発進!! 阪神ドラフト2位の井上広大外野手(18=履正社)が明日8日にも、高知・安芸キャンプの2軍本隊に合流する。

右足首の捻挫で別メニューだったが順調に回復。昨夏の甲子園決勝で星稜・奥川から優勝を導く3ランをかっ飛ばすなど高校49本塁打の主砲が、いよいよ初の屋外フリー打撃でベールを脱ぐ。飛距離自慢がどんな安芸伝説をつくるのか。1軍での大暴れを目指す規格外のフルスイングが楽しみだ。

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安芸の青空を見上げるのが楽しみになる。将来の主砲候補と期待される井上の本隊合流が、秒読みに入った。休日のこの日は他の新人と安芸市内のちりめん加工場を見学。はやる気持ちを抑えきれなかった。

「トレーナーとの相談になりますが、第2クールは全体練習に入るのも多くなると思います。自分が一番、声を出して引っ張っていくつもりでやりたい」

昨年11月に右足首を捻挫した影響で、1月の新人合同自主トレから練習メニューを制限されていた。2月のキャンプイン後も別メニュー。キャッチボールやティー打撃などを行い、前日5日は走塁で右足から滑り込むまで回復した。7日の状態を確認し、GOサインが出れば8日から本格参戦する流れだ。チームで唯一、屋外フリー打撃を行っていない。昨夏の甲子園で3本塁打を放つなど、将来性豊かなスラッガー。いよいよ“真打ち”が登場する。

だが井上自身は冷静そのものだ。安芸にはかつての大物助っ人の飛距離を危ぶんで、設置された左翼後方の通称「ディアーネット」がある。だが色気はない。

「大きいのを狙うと打撃が崩れてしまう。1つのキッカケで崩れる。大きいのを打つ時は反応で打つのが多い。センターから右方向の打撃をやっていきたい」。自然体こそ特大アーチの源。規格外のフルスイングで、94年にロブ・ディアーが記録した阪神最長不倒、160メートル弾も夢ではない。

怪力は実証済みだ。1月末に鳴尾浜でロングティー打撃を実施。柵越え5連発&3連発など、天性の飛ばすセンスを見せつけた。力まずに球を乗せて運べるタイプで、飛球の角度もホームランバッターそのもの。待望の右打ち大砲候補だ。

2月は和田TAがマンツーマンで練習パートナーを務めてきた。初日、ティー打撃を終えると、声を掛けられた。「打撃はいいモノを持っている。守備、走塁にも意欲、関心を持って取り組まないと1軍では活躍できないよ」。深く心に刻んだアドバイスだった。

井上は言う。「守備や走塁に取り組めば好きになるし上手になると思う。全体的なレベルアップを図りたい」。目標は広島の大砲鈴木誠也だ。高校時代はフライボール革命を重視した練習でゴロを打つのを戒めてきた。目指す1軍での大活躍へ。根っからのパワーヒッターが、安芸から新たな伝説を作る。【酒井俊作】

◆井上のこれまで 昨年11月の右足首捻挫の影響で、1月8日の新人合同自主トレは別メニューで滑り出した。経過は良好で、同28日のロングティー打撃で持ち前の長打力を披露。本塁付近から右翼ポール96メートルのフェンスを次々に越した。同30日の最終日には、ロングティー40スイング中8本が柵越え。キャンプ初日の2月1日には、臨時コーチの和田テクニカルアドバイザーからティー打撃の指導を受けた。「外を多く打っていたら内の反応もしやすい。高めをずっと打っていたら、低めは打ちやすい」と意識改革も進めている。

◆阪神の高卒ドラフト新人野手 井上が1軍戦に出場すれば、97年浜中以来球団23年ぶりとなる。過去8人がプロ1年目にデビューしている。最多出場は74年掛布雅之の83試合で、66年藤田平の68試合が続く。掛布は349本塁打で阪神最多、藤田の2064安打は同2位と、球団史に残る選手となった。また、高卒のドラフト入団新人選手の直近の本塁打は、74年の掛布以来出ていない。45年ものブランクはセ・リーグ最長で、井上には“掛布以来”の期待がかかる。近年は秋山拓巳、藤浪晋太郎ら高卒新人投手は健闘しているが、全体的に野手の活躍が少ない。

<安芸キャンプの主な飛ばし屋>

◆フィルダー(89年)バックスクリーン左の場外へ145メートル弾。ファンの高級車の屋根を直撃し、球団が修理費3万円を負担する事態に。翌日の練習から近辺に「駐車禁止」の立て看板が登場。その後、左翼席後方に高さ7メートルの「フィルダーネット」が設置された。

◆ディアー(94年)右打者では今なお安芸史上最長の160メートル弾をかっ飛ばした。左翼後方にディアーのため新たに設置した「ディアーネット」も越える規格外の場外弾に、5000人のファンがどよめいた。

◆浜中治(97年)高卒1年目のキャンプ。サブグラウンドでのフリー打撃で、約140メートル先の室内練習場を直撃する一撃を見せた。吉田義男監督は「いじらず、大事に育てるように」と異例の通達を出した。

◆大豊泰昭(98年)ディアーに並ぶ安芸最長の160メートル弾。中日からの移籍で場外弾を警戒し、右翼上部のネットを3メートル高く増設。だがフリー打撃の打球は、「大豊ネット」の30センチ上を軽々と通過し、94年本塁打王の怪力を見せつけた。