打撃偏重の選手起用を改めよ-。日刊スポーツ評論家陣がリレー形式で提言する「V奪回へのシナリオ」の第4回は、真弓明信氏(67)が複数ポジション制の弊害を指摘。1つの守備位置で競わせる育成システムの確立を訴えた。

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これからシーズンオフを迎え、来年2月には春季キャンプがある。タイガースは、競争のシステムをもう1度見直すべきではないか。ここ数年、誰がどこを守るのか分からない状況が続いている。控えの選手は複数のポジションをこなせる方が、監督としては助かる。しかし1つのポジションを責任持って守る方が確実に技術は上がる。ベストナインが狙える選手が増えれば、チーム力も上がるはずだ。適材適所を考えて、それぞれの選手により専門的に守ってもらいたい。

今年も相変わらず三塁から一塁、二塁から三塁というように、1人の選手がセンターラインをまたいで、逆方向への守備交代が見られた。例えば、ショートを守れるならセカンドも守れるというが、それほど簡単な問題ではない。両方守った経験から言わせてもらうと、打球の質は全く違い、動きも異なる。ショートは遠投も必要だし、内野安打になるような前の打球もある。セカンドは逆方向へのスローイングになる。広く浅くという守備ではレベルは上がらない。専門的に1つのポジションに取り組んでこそ、難しい打球への対処、球際の強さが生まれる。

選手がいろんなポジションを守るのは、打撃重視のオーダーを組みたいからだ。得点力不足という近年の課題もあり、打てる選手から試合に出す。これでは選手も意識的に打つことを優先してしまい、守備力の低下につながっている。やはり来季阪神が優勝を狙うには、守備力の向上は必須だ。

このポジションで勝負しろ、という見極めが、首脳陣には必要だ。そしてその責任を取るための監督やコーチだ。各選手の伸びしろも考えて、それぞれ選手のポジションを決めないと競争にならない。例えばの話だが、遊撃なら木浪に小幡をぶつけて、競わせる。糸原には植田をぶつける。その結果、敗れた方は他のポジションに回さず、もう1度ファームで鍛える。特に若い選手は1軍のベンチに置いていては、練習量も減るし試合勘も鈍る。控え選手はある程度、力量の分かったベテランや中堅でいいんだ。このポジションでしか試合に出られないとなれば、選手は必死にノックを受けたり、石にかじりついてでも奮起するだろう。

巨人は打力、守備、走塁など適材適所で、2軍を含めチーム全体で戦っていた。阪神もポジション争いという面で、競争の仕組みを見直す必要がある。誰をどこで使うかというのは大事なこと。戦力はそこで決まる。(日刊スポーツ評論家)