投手には勝負球がある。ロッテ唐川侑己投手(31)の場合、それはカットボールだ。変化球なのになぜか、直球と同じ球速帯。「7回の男」として活躍したプロ13年目の昨季、左打者の懐に食い込ませ続け、防御率1・19の原動力になった。なぜ打たれないのか。キャンプインまで残り2週間。唐川オリジナルともいえる魔球に迫る。【取材・構成=金子真仁】

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唐川のカットボールは、握りの時点でオリジナルだ。ボールの縫い目が最も狭まる部分に、人さし指と中指を縫い目と平行に置き、指1本分ほど左にずらす。親指はボールの裏側に置き、薬指の指先を親指の先に近づける。

リリースの時、直球で手の甲が二塁ベース側に向くとするなら、カットボールでは極端に表現すれば三塁側に向ける意識で投げるのだという。

-これでどのように腕を振る?

唐川 直球と一緒です。角度だけはしっかりやって。手首も指も全部ロックして、直球と同じように腕を振っています。

-最後に残る指は?

唐川 人さし指ですね。

中指を先に離し、最後に人さし指でスライダー方向への回転をかける。テレビ画面では直球のように見える。打者側からはボール1~2個分、スライダー気味に吹き上がってくるように見えるという。

-曲がっているのはマウンドから分かる?

唐川 (テレビで)見ている人よりは分かりますよ。でもトラックマンのデータ上だと、別に曲がってはいないんです。直球はシュート回転するんですけど、僕のカットボールはそのシュート成分が少ない。球にもよります。本当にスライダーのように曲がっている時もあるし。

-ホップ成分が多いとも言われる

唐川 基準値から40センチのホップ成分があるみたいです。その数字を目安にカットを投げています。

-左打者の内角ギリギリで見逃し三振を奪うならどこを目がけて投げる?

唐川 直球を左打者の内角に投げるのと同じ感じです。曲がると思って甘めにイメージすると腕が横振りになって、離れて、あまりいいボールじゃなくなるので。

パ・リーグの強打者たちを苦しめる魔球は、千葉・成田高時代に先輩に教わったスライダーの握りがベースになっている。

-握りの秘密は

唐川 スライダーの握りがどんどん(曲がりが)小さくなってカットボールになったので、秘密みたいのはないです。

-フォーシームの握りから少しずらしてカットを投げる投手が多いが?

唐川 僕も直球をずらして投げようと思ったことがあるんですけど、全く曲がらなかったです。

-いつからカットボールを投げている?

唐川 どうなんですかね。分からないです。

スライダーの曲がり幅を少しずつ小さくし、プロ14年目の今に至るという。周囲から「それはカットボール」と指摘されたのは、4年ほど前から。

-なぜ曲がりを小さくしていったか?

唐川 変化球って、直球と同じ軌道で来て曲がるのが理想だと思うんですよね。スライダーって大きい分、ちょっと膨らんだり、直球の軌道がずれたりするのが、僕は嫌だったので。直球の軌道に寄せようと思ったら内にも外にも出なくなった、みたいな。

-変化球は大きく曲げる、のイメージもある

唐川 それも1つの特長だと思う。うちでいったら、東條は大きいスライダーで空振りを奪える。そういうのも武器だし、こういう小さい変化球も武器だし。

現在の直球の最速は148キロ、カットボールの最速も148キロになった。

-投球でのカットボールの比率は?

唐川 60%くらいですかね。直球は今年でいったら1登板で1、2球くらいです。

-直球を投げたいという思いは?

唐川 投げたいです。でも別に、まっすぐを投げるために野球やってるわけじゃないので。選択肢としてシチュエーションで一番いい球を投げるだけです。

-仮に先発で投げるとしたら比率は変わるか?

唐川 はい。昨年の2軍の先発ではやっぱり直球の比率が多くなって、カーブやチェンジアップも増えるし。満遍なく、になります。

-プロ13年目に脚光を浴びた魔球は、今季は相手もより研究してくるはず。その上をいくには?

唐川 自分のものとして磨いていく必要はあると思います。体の使い方をしっかりして、フォームももっと安定していい形で投げられれば、球の質は必然的に上がってくると思うので。もっと強くリリースする、体をもっと強く使うことはできると思います。

-まだ速くなる?

唐川 もうちょっと出るんじゃないかなと思ってますけど。カットで150キロ? 目指してるわけじゃないですけど、出たらいいなとは思っています。

高校生をはじめ学生野球の選手にも、カットボールは珍しい変化球ではなくなってきている。

-肩や肘への負担は

唐川 どうなんですかね。僕は負担ないですけど。変化球も、ちゃんと投げれば負担はかからないと思うんですよね。

-カットボールを習得したい人へのアドバイスを

唐川 変化球って、曲がりを求めてしまうんですよね。僕らも意識しないとそういうのがあるので、曲がりというよりボールにどういう回転、どのくらいの回転をかけるかというのを意識してるかなと。小手先で軌道の変化幅とかを気にすると、あまりいい動きはしないと思うので。それよりも直球にどう近づけて投げるかが大事かと思います。

※取材は12月中旬に新型コロナウイルス感染防止対策をとって行いました。