阪神の怪物スラッガーに、待望の本拠地初アーチが飛び出した。ドラフト1位の佐藤輝明内野手(21=近大)が5回に、甲子園最深部の左中間席へオープン戦2号2ランを放った。3月10日の「サトウの日」にサイクル安打目前の3安打2打点の活躍。東日本大震災の被災地への思いも込め、特別な1発をかみしめた。

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多くの左打者が苦戦した甲子園で、怪物スラッガーがいとも簡単に放物線を描いた。5回2死二塁。佐藤輝が広島スコットのツーシームを強振。打球は浜風に乗って、最深部の左中間席に届いた。オープン戦2号となる2ラン。甲子園では記念すべき初アーチだ。「逆方向ですけど、いい当たりが打ててすごく良かったです。阪神ファンの皆さんの前で打った1本、特別なものになるんじゃないですか」。その瞬間、6071人の観衆からどよめきが起きた。

2回の打席は、高く打ち上げたが、上空を舞う風の影響で三塁手がファウルゾーンからフェアゾーンに慌てて戻り、ポテンヒットとなった。4回には引っ張って右翼線へ二塁打。三塁打が出れば、サイクル安打だったが、3安打2打点の活躍で7回の守備からお役御免。この日はまさに「佐(3)藤(10)の日」になった。「ああっ、そうですね。佐藤の日…、良かったです(笑い)」。豪快なフルスイングに、浜風を味方につければ、左打者不利の甲子園でも結果を残せる。

東日本大震災から10年。3・11は佐藤輝にとっても、忘れられない1日だ。宮城・村田町で暮らす父方の祖父母も激震に見舞われた。幸い大きな被害はなかったが、帰省の際に「空港の周りに何もなかった。すごい被害なんだなと思った」と被災地を目の当たりにした。当時小学生だった少年の脳裏には、今もあの光景が残る。「まだ苦しんでいる方もいると思うので、そういう方に勇気をちょっとでも感じてもらえたかな」。10年の月日が流れてプロ野球選手になった。被災地を勇気づけたい思いをバットに込めた。

守備では反省点も出た。近大時代には経験があったが、プロでは初めてとなる甲子園での三塁守備。5回に広島田中広のボテボテの打球に前進したが、バウンドに合わせられず後逸。初失策を記録。「どこを任されてもいいように、しっかり準備したい」。試合後には居残りで筒井外野守備走塁コーチと外野守備を練習。浮かれることなく足元を見つめて、開幕へと前進していく。【林亮佑】

○…佐藤輝が近大の「体育特別賞」を受賞する予定であることがわかった。体育活動で顕著な成績を修めた学生に贈られる。昨秋の関西学生野球で最優秀選手となり、同リーグで二岡智宏が持つ通算本塁打記録を更新する14本塁打を記録したことなどが評価された。