今回の「解体新書」は巨人ドラフト5位、秋広優人内野手(18)の登場です。2月からアピールを続け、開幕スタメンも期待されるルーキーの柔らかい打撃の秘訣(ひけつ)を和田一浩氏(48=日刊スポーツ評論家)が解説します。連続写真は2月11日、紅白戦の7回、左腕の戸根から124キロの変化球を右前打とした際のものです。

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今キャンプで話題を集めた高卒ルーキーといえば、巨人の秋広だろう。身長が2メートル。体格的に目立つ要素もあるが、それだけではここまで話題が続かない。この連続写真を見ても、高卒の長身打者とは思えないほど、バランスのいい打撃フォームをしている。このバランスの良さが「柔らかさ」につながっているのだが、このような「柔軟な打撃」がどうしてできるのかを探ってみよう。

まず(1)の構えだが、パッと見ただけで「いい構え」のように見える。しかしベルトより下の下半身だけを注視すると、前(投手側)に突っ込みそうな気配がある。その分、ベルトから上の上半身だけを少しだけ後ろ(捕手側)にずらすようにしてバランスを取っている。おそらくプロのスピードに負けないように始動を早めようとしているから、下半身が“突っ込み気味”になっているのだろう。もっとプロのスピードに慣れ、体幹に力が付いてスイングスピードが速くなれば、自然に良くなると思う。

(2)では踏み込んでいく右スパイクの位置とグリップの位置が大きく離れている。上半身のグリップの位置も、タイミングを計る右足も、それほど動かさずに「割り」を作るタイプだが、グリップと右スパイクとの距離が大きく離れていて、きれいなトップの形ができている。

少しもったいないのは、(2)から(3)へ移る時の動き。もう少し左膝に粘りがあればいいのだが、(3)では少しだけ内側に折れるタイミングが早く、体の軸が投手側に寄っていってしまっている。これは体の左サイドを器用に使えない右投げ左打ちにありがちな“短所”とも言える。

体が投手側に寄ってしまうと、どうしても速い真っすぐに立ち遅れ気味に見えたり、差し込まれ気味になって詰まった打球が増える。しかし右投げ左打ちの“短所”は、右投げ左打ちの“長所”で補っている。(4)から(6)の右足の動きに注目してほしい。(4)で曲がっている右膝を(5)と(6)で伸ばすように使い、投手側に突っ込みそうな上半身と投手側に流れていきそうな下半身を止めている。内側に折れた左膝の位置も、(4)から(5)で前(投手側)に出ていないのは、右太ももの内側に“壁”が作れている証拠になる。

上半身の動きを見ても、右投げ左打ちの“長所”を生かしている。(4)から(5)に移るときのグリップの動きを想像してもらいたい。(4)の位置からスムーズに出てこないと、(5)の位置に収まらない。これは利き腕でもある右腕の肘を柔らかく使えているから。よく「脇を締めて打て」と教える指導者がいるが、脇が空かないように意識しすぎるとグリップの位置が投手側に移行する前にバットのヘッドや手首が返りやすくなってしまう。

秋広は右肘を曲げたまま、グリップが体から離れていかないように器用に使えている。だから右脇にもゆとりができる。そのためバットを振っていくスペースを大きく作れるし、体の中というか、へその前でインパクトしやすい形で打ちにいける。利き手ではない左腕も、左肘を体の前に入れていくように使えている。両肘を柔らかく使えるところが「天性の柔らかさ」を生み出す秘訣になっている。左膝の我慢が足りない“短所”を、利き手の右腕と利き足の右足でカバーしている。

インパクトしている(6)は、ほんの一瞬だけタイミングが早い。バットと両肩が平行になるポイントで、もう少し球を引きつけて打てた方がいいのだが、現段階ではプロのスピードに負けないように意識しているし、変化球の分、仕方ないだろう。ここでもスピードに慣れてきたり、多少差し込まれても球を押し返していけるパワーがつけば引きつけて打てるようになる。技術的な部分で言うなら、左の股関節辺りに力をためて打てるようになれば、タイミングが多少ずれても強い打球が打てるし、変化球にも我慢が利くようになる。

打つポイントが一瞬だけ早かった分、(7)でもバットのヘッドが立っていく瞬間が若干だけ早い。だから(8)でもグリップが肩のラインより若干だが上になり、スイング軌道が「あおり気味」になっている。そのようなスイング軌道になると、球の上っ面をこするようなゴロになる。打球が上がってもドライブがかかる。ゴロになっても球足が速いのでヒットにはなりやすく、悪くはない。ただ、将来的にホームランを増やそうとするのなら、改善点のひとつとして覚えておくといい。

(9)ではあおり気味に高く上がったグリップも、右肩付近に収まっている。(10)以降もしっかりと体を回して打てている。

ここまで細かい部分を指摘させてもらったが、あくまでもプロで何年も飯を食っているような超一流の打者として見た場合の見解なのを理解してほしい。文中でも解説しているが、体に力がついただけで改善する部分は多いと思う。今は開幕スタメンを目指し、レギュラーになることで頭はいっぱいだろう。ただ、しっかりと将来を見据え、野球人がビックリするようなスケールの大きな打者を目指してほしい。(日刊スポーツ評論家)

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巨人ドラフト5位の秋広優人内野手(18=二松学舎大付)が、チームとともに関西入りした。12日からはオリックス2連戦(京セラドーム大阪)、14日は阪神戦(甲子園)に臨む。母校が甲子園に出場した1年時の18年はスタンドで応援。昨年の夏は同大会が中止となっており「高校時代に目指していた場所で野球ができるのは楽しみです」と憧れの聖地でのプレーを心待ちにした。