JR水道橋駅の西口改札を抜けて見上げた先に、東京ドームが見える。卒業証書と花束を抱えるはかま姿の女子大生に、今年は「YG」マークの黒い巨人の帽子をかぶった子どもが軽快な足取りで歩を進めていた。桜が咲き誇る日本の卒業シーズンに、プロ野球の開幕戦が2年ぶりに戻ってきた。

変わった風景もある。ドームの内外で誰もがマスクを着用し、東京ドーム内の売店では接触を避けるべくスマートフォンで事前に注文できるモバイルオーダーがスタートした。時代も人も、例外なく変わる。

原監督が百戦錬磨の名将の名将たるゆえんが、「不変」と「変化」を持ち合わせているところにある。

巨人監督として14年間でリーグ優勝は9回。09年WBCでは日本代表監督として世界も制した。それでもなお「我々は勝つというのが一番重要なミッション」との信念は変わらない。常に実力至上主義を掲げ、競争を勝ち抜いた者を選び抜く。今季は4年目の若林と大城、5年目の松原を初の開幕スタメンで起用。開幕投手を託した菅野に開幕投手を告げたのは、春季キャンプ最終日の2月28日だった。実績だけで判断せずオフにメジャー球団との交渉のため渡米した影響をキャンプでシビアに見極めてから最終決定を下した。勝利への欲求と向上心が、指揮官としての源流にある。

不変を貫くための変化ならいとわない。今年63歳は、西武 辻 監督とともに12球団最年長。年々広がる選手との年齢差はみじんも気にしない。「彼らから見るとおじいちゃんだから」と笑い飛ばしながら、高卒選手にも丁寧に声を掛ける。宮崎キャンプの宿舎の部屋では、日本列島を揺るがせた大人気アニメ「鬼滅の刃」にチャンネルを合わせた。「全集中だね」。固定観念にとらわれず、新しいものにも軽快なフットワークで反応できる。臨機応変なスタンスが、年代を問わずに人を引きつける。

今季も開幕戦から「変化」と「不変」からなるタクトを振った。7回には一塁手ウィーラーの失策で失点し、8回1死一、三塁では一塁走者の代走吉川が初球前のけん制につられ、三塁走者重信が盗塁死。新守護神中川は9回に同点に追いつかれた。攻守で歯車が微妙に狂い、試合の流れはめまぐるしく変化した。その中でも動じることなく手を打ち続け、「代打亀井」の一手で試合を決した。

亀井を笑顔で出迎えた原監督は、昨年の開幕戦には見られなかった観客席のファンに大きく手を振った。声は出せなくとも、全身で感謝を伝えた。「今日は予想もつかないようなゲーム展開でしたね。結果的に勝ち切れたというのは非常に大きい。勝負はどっちに転んでもおかしくないようなペナントレースになると思います」と引き締めた。監督として史上初の3度目のリーグ3連覇の偉業へ、その先の4度目の日本一へ-。「監督・原辰徳」の15年目の戦いがドラマチックに幕を開けた。【浜本卓也】