虎の二刀流伝説の再現や! 阪神藤浪晋太郎投手(27)が投打の活躍で1450日ぶりの甲子園勝利をつかんだ。

5回に自身3年ぶりとなる先制2ランを放ち、自らを援護。マウンドでは制球に苦しんだが、6回途中3安打5四死球6奪三振の無失点でまとめ、今季2勝目だ。投手が打った本塁打得点だけで勝つのは、球団では73年江夏以来。矢野阪神は今季初の6連勝で、貯金を早くも2ケタに乗せた。

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胸元の虎が乗り移ったかのようだ。藤浪は荒々しく内角直球を振り抜いた。

「大阪のおばちゃんみたいなユニホームを着ているので、しぶといバッティングをしてやろう、と」

前進守備を敷いていた左翼青木がすぐに足を緩める。飛距離131メートルの先制2ラン。「自分でも引きました」と照れ笑いする弾道に甲子園全体が動揺する中、ギラついた表情のままダイヤモンドを回った。

「21年ウル虎イエローユニホーム」お披露目試合。虎の顔が大胆にデザインされた戦闘服に負けない迫力で右腕、バットを振った。

スライダー系が大きく抜けながら5回2/3を6奪三振5四死球3安打で無失点。5回裏2死二塁ではヤクルト石川から943日ぶりのプロ3号を決めて度肝を抜いた。1450日ぶりの甲子園星。矢野政権最多タイの6連勝、12球団最速貯金10に笑みがはじけた。

4年間、聖地で勝てずにいた。心身ともに疲弊していたころ、「甲子園」という言葉を耳にすると、必ずと言っていいほど原風景を思い出した。

「普通だったら自分が投げている時の景色が目に浮かぶはずなのに、不思議なんですけどね。雑多な通路を抜けた時の、あの壮大な風景を思い出すんです」

薄暗い球場内通路を歩く。焼き鳥やカレーの匂いにそそられながら先を急ぐ。青空からパッと光が差し込み、照らされた芝生が目の前に広がる。小学生時代に聖地を訪れた時の記憶だ。

「入り口から通路を抜け出た時の一気に明るくなる感じ。うわ~広いなという、あのワクワク感が今も忘れられないんでしょうね」

大阪桐蔭時代には春夏連覇を成し遂げた。阪神入団後は温かい大歓声と拍手に何度となく励まされた。時には厳しい言葉が自分を奮い立たせてくれた。

「甲子園はヤジが多くて投げにくいなとか、投げるのが嫌だなという日もあったんですけど…」

酸いも甘いも教えてくれた舞台は今も、特別な場所に変わりない。

27歳初登板で甲子園プロ初アーチ。やはり背番号19には聖地がよく似合う。

「19年に1登板しかしていないのに、ものすごい歓声をいただいて。その時から甲子園は投げやすいと思っています。甲子園が大好きなので、これからも頑張ります」

お立ち台。原風景に勝るとも劣らない景色が、藤浪の目の前に広がっていた。【佐井陽介】

▼藤浪の本塁打は14年4月15日広島戦(マツダスタジアム)、18年9月16日DeNA戦(横浜)に次いで3本目。現役では最多となった。なお甲子園ではプロ初本塁打だが、大阪桐蔭3年春の2回戦九州学院戦、夏の準々決勝・天理戦で、それぞれ本塁打を放っている。

▼阪神投手による本塁打は20年の開幕戦6月19日巨人戦(東京ドーム)で西勇が記録して以来。甲子園で本塁打を打った投手は15年8月30日館山(ヤクルト)以来。阪神では07年4月12日ボーグルソン以来、14年ぶり。

▼阪神投手の本塁打が決勝点となったのは、17年7月23日ヤクルト戦でのメッセンジャー以来。日本人では83年8月23日ヤクルト戦での工藤一彦以来、38年ぶり。なお阪神の得点は藤浪の本塁打の2点だけ。投手が打った本塁打の得点だけで勝つのは15年10月2日に前田の2ランで2-1の広島以来となり、阪神では73年8月30日にノーヒットノーランを達成した江夏がサヨナラ本塁打で1-0勝利して以来だった。

▼阪神投手の2リーグ分立後の通算3本塁打以上は、バッキー9、小山正明8、梶岡忠義7、山本和行7、江夏豊6、藤村隆男4、江本孟紀3に次ぎ8人目。