レジェンドはやはり、甲子園球場に愛された。2年ぶりに開催された「日本生命セ・パ交流戦」で、2年前は阪神の顔だったロッテ鳥谷敬内野手(39)がひと振りで輝いた。603日ぶりの聖地で、2点を追う7回1死一、二塁、8番佐藤都の代打として登場。大勢の虎党からも応援される中、西勇からの右前適時打で今季初打点を挙げた。勢いに乗ったチームは、8回にマーティンが逆転15号2ラン。鳥谷がセ首位に立つ古巣撃破への道しるべになった。

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鳥谷が甲子園でヒットを打った。二塁走者が生還し、万雷の拍手が鳴る。野球ファンが見慣れた光景はしかし、阪神の歓喜の時ではなかった。「打った後は久しぶりにこの声援の中で、というのを感じました」。黒いユニホーム、赤の打撃用手袋。ロッテ鳥谷として甲子園で勝利に貢献し、懐かしい感覚を思い出した。

603日ぶりに黒土を踏んだ。7回、三塁側ベンチを出て代打準備を始めても、最初は誰も気付かない。徐々に球場の空気が変わり、懐かしいシルエットに気付く。「代打鳥谷」のアナウンスで銀傘に約80デシベルの拍手が響いた。「向こうにしてみればピンチの場面なので、そこで声援を送ってもらうというのもなかなかないですし、そういう意味では結果として応えられて良かったです」と温かさへの感謝を口にした。

公式戦924試合目にして初のビジター甲子園だ。「お客さんが入ってる中で練習することもないですし、ビジターのロッカーの広さとかも感じることできないので。練習の時間帯も全然違うので、いい経験になったと思います」。練習中にはファンが手に持つ背番号1のユニホームやタオルが、目に飛び込んできた。

今季初打点で1点差に迫ると、一塁ベース上で「ヨッシャー!」と叫んだ。阪神時代はめったに感情を出さなかっただけに、特別な思いがあったのか。鳥谷が打線を勢いづけ、8回にはマーティンの逆転弾が右翼席へ。「最終的にはチームが勝てるのが一番なので」と喜びに浸った。交流戦での安打332本は歴代1位。6月には40歳になるがまだまだ衰えない。役割も分かっている。

「交流戦でDHがない試合が多いので、代打の重要性というのは特に、試合の中ではDHでやっている時よりも出てくるので、そこの役割をしっかり果たせたらなと思います」

フォア・ザ・チームに徹しながら、主役のような結果がついてくる。鳥谷敬のひたむきさと華やかさから、若手たちも多くを吸収する。交流戦の初戦、ロッテに大きな勢いがついた。【金子真仁】

▼ロッテ鳥谷は交流戦が始まった05年以降、新型コロナウイルスの影響で中止となった昨年を除き、全16シーズン出場となった。交流戦初年度から出場シーズンを継続しているのは、この日出場したヤクルト内川のほか、ヤクルト石川、楽天涌井、西武栗山がいる。

▼鳥谷が安打を放ち交流戦通算最多安打を332本とした。通算最多試合は339試合目。