広島のドラフト1位、栗林良吏投手(24)が守護神としてフル回転している。開幕から連続無失点の新人プロ野球記録を樹立し、昨年までのチームのウイークポイントを補う。巨人、レッドソックスなどでクローザーの経験もある上原浩治氏(46=日刊スポーツ評論家)が、栗林の連続写真を分析。活躍の根拠を解体新書に記した。

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ルーキーでありながらストッパーを務めている広島の栗林は、開幕から19試合、連続無失点を続けている。リリーフ陣が手薄だったチーム事情もあるだろうが、球威や制球力を見ても「そうは打たれないだろうな」という根拠を持っている。広島は昨年、新人王を獲得した森下がいるが「先発」と「抑え」の役割こそ違うものの、投球フォームは似ている。スカウティングでこのようなタイプを評価しているのか、指導法で似たタイプになったのかは分からないが、2年連続でいい投手を獲得している。

(1)ではグラブを高い位置に置き、セットポジションからの投球スタイル。どっしりとして安定感がある。最初から軸足の右足に重心を置くというより、体の中心に重心を置いている。このタイプは左足を上げるときにバランスを崩したり、投げる方向に上半身が突っ込みやすいが、足腰の強さでカバー。左足を上げきった(2)でも、テークバックに移行していく(3)でも軸がブレていない。(4)の形も頭の位置がセカンドベース方向に残るような形で、お尻が投げる方向に向かっている。

ここから(5)と(6)でグラブを持つ腕を上げていくのだが、このように高く上げることにより、重心を軸足にためることができる。参考までに補足すると、このような形でグラブ側の腕を使うと、軸足には力がたまっていいのだが、脱力して落とした右腕が素早く上がってきにくくなる。栗林にしても、(7)で右腕が上がり始めているが、もう少し右肘のローテーションを早めて、腕が振り遅れないようにした方がいい。

昨年の開幕当初、森下も同じように若干だが腕が振り遅れていた。だから高めの真っすぐには力がある半面、低めの真っすぐの球威と制球力がいまひとつだった。栗林も同じような傾向があるが、森下と同じような大きく割れる縦のカーブがあり、落差のあるフォークがある。カーブは打者の目線を上げられるし、フォークは空振りが奪える。森下は夏場以降、右腕が振り遅れないように修正し、先発投手として文句なしの働きをした。しかし栗林は抑えで、短いイニングを全力で抑えにいく役割。今のままで、修正する必要はないと思う。

トップの形ができた(8)からリリースする(12)まで、下半身の使い方は素晴らしい。大きなスライドで(12)のリリースする瞬間まで右足のつま先が地面から離れていない。軸足に長く体重が乗っている証拠。上半身は先ほども指摘したように若干だが腕が振り遅れるため胸を張る形も、顔の方向もややアゴが上がっているが許容範囲。(11)では右手の甲が三塁側に向くような形で腕のしなりもいい。この写真はフォークを投げたものだが、真っすぐと同じ軌道で腕を振り抜けている。

リリースした直後の(13)では、体がねじれたようなフィニッシュになっている。これはグラブを持つ腕を使って、強烈に左肩の開きを抑えているから。私はリリースした後、グラブを持つ腕を後方に逃がすようにして右肩や右肘の負担を減らしていた。ただ、逃がすタイミングは難しく、早すぎれば左肩が開いてしまうし、力もロスしてしまう。栗林はまだ若く、体も元気な年齢だけに気にする必要はないだろう。

(14)では右足が高く跳ね上がるように使えている。(15)で着地した場所も体の横に収まっている。左腕や踏み出した左ももで、しっかりした壁を作っている。体の開きを抑えたフォームで、鋭く腕を振っていける。

抑えは力がなければ務まらないが、中継ぎと違って投げる機会は分かりやすいし、調整はしやすい。今年はオリンピック(五輪)期間もあって、疲労回復にあてられそう。疲労のたまる夏場も乗り切れるのではないかと思っている。そこさえクリアできれば、1年間を通して、活躍できる能力は備わっている。(日刊スポーツ評論家)

◆栗林良吏(くりばやし・りょうじ)1996年(平8)7月9日、愛知県愛西市生まれ。愛知黎明2年時に投手転向。名城大では通算32勝15敗。3年時に大学日本代表。19年トヨタ自動車入り。20年ドラフト1位で広島入団。178センチ、83キロ。右投げ右打ち。