覚えていますか? 97年に鳴り物入りで阪神入りしたマイク・グリーンウェル氏(54)。右足甲を骨折し「神のお告げ」と突然引退を表明、帰国した伝説の? 外野手が、騒動の真相を明かした。昨年8月、不定期連載「野球の国から」でお届けした「あの助っ人たち」の特別編です。

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日本ではわずか7試合の出場にもかかわらず、これほど強烈な記憶を残した助っ人も珍しいだろう。97年に当時の球団最高額である年俸3億円超えでプレーしたグリーンウェル氏だ。メジャー通算130本塁打、名門レッドソックスのスター選手という鳴り物入りの肩書で入団。だがキャンプ中に背中を痛め一時帰国し、4月下旬に再来日も、2週間足らずで右足甲に自打球を当てて骨折。「野球をやめろという神のお告げ」という迷言? を残し、日本で引退会見して帰国した。

観光気分で来日し、気に入らなかったのでは? 衝撃の退団背景として、そんな臆測も飛び交った。実は昨年も真相を求めて、同氏が経営する米フロリダ州のテーマパークと農場でコンタクトを試みたが空振り。2年越しのアタックで、ついに対面が実現した。

場所はレ軍の本拠地フェンウェイパーク。86年のリーグ優勝30周年を祝う記念日に、当時のメンバーとして出席したグリーンウェル氏を直撃したのだ。阪神ファンはあのときショックを受け悲しんだと伝えると、同氏は思ってもみなかった言葉を口にした。

「私もだよ」

そして話を続けた。「私は、日本でプレーすることを本当に喜んでいた。日本が大好きだったよ。ファンは熱狂的で最高だし、球団もよくしてくれた」と懐かしんだ。さらに「日本野球はレベルが高く、優れた選手が多い。私は何人もの米国人選手に、日本でプレーするチャンスがあれば、ぜひ行くべきだと話している。本当だよ」とまくしたてた。

「神のお告げ」と風のように去ったあの騒動は一体、何だったのか。

「足に自打球が当たって骨折するなんてことが、どれだけの確率で起こると思う? 本当に不運だった。あのケガではいずれにせよ1年プレーできなかったし、現役はもう十分長くやっていたので、これはもう引退せよということだと。もしあの後、もう1度日本に行く機会があれば行っていたかもしれないけれど、どこからも声が掛からなかったんだ」

本心なのか、適当にごまかしているのか…。少なくとも話しているグリーンウェル氏の表情に、邪心は感じられなかった。今は農場で自らトラクターを運転し、サラダ菜やトマト作りに精を出す。トレードマークのヒゲはすっかり白くなったが、「今も人生を満喫しているよ」と屈託なく笑った。【水次祥子】