虎の将がゲキって勝った。阪神矢野燿大監督(52)が就任3年目で初めて、ピンチの場面でマウンドに向かった。2点リードの7回2死満塁で先発伊藤将司投手(25)に駆け寄り、「お前に任せたぞ!」と闘魂を注入。伊藤は代打松山を二ゴロに斬り、ヤマ場をしのいだ阪神が勝ち切った。ナイターで巨人が勝ったため、負けていれば首位から陥落していた正念場。指揮官の気迫が低調打線にも乗り移り、14安打5得点で目覚めの連敗ストップだ。

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矢野監督は迷いなくベンチを飛び出した。2点リードで迎えた7回。先発伊藤将が8番石原に四球を与え、2死満塁となった場面だ。指揮官は小走りにマウンドに向かった。引退試合などでマウンドに行くことはあっても、ピンチの場面は就任3年目で初めてだった。まさに異例中の異例。そして、指揮官は少し驚いた表情のルーキー左腕を、ひと言で奮い立たせた。

「お前に任せたぞ!」

そのゲキに応えるように、伊藤将は代打松山を変化球で二ゴロに打ち取り、ピンチを脱出。グラブをたたいて喜ぶマウンドの伊藤将に、ベンチの矢野監督は何度も「矢野ガッツ」を繰り出した。勝敗を分けた大きな分岐点になった。阪神が負け、巨人が勝てば首位から陥落していた正念場の戦い。指揮官の闘魂注入が、連敗ストップを演出した。

「俺がマウンドに行って何ができるわけでもないけど、応援することしかできへんけど、今日も将司に何とかもう1人頑張ってほしいところやったから。今日みたいに抑えてくれて、最高の形になったけど、打たれることがあってもお互い『ヨシ、もう1回頑張ろう』という気持ちだけを作りにいくというのも大事。それぐらいしか俺はできないけど、そのために行った」

苦い教訓があった。6月8日の日本ハム戦(札幌ドーム)。1点リードの6回2死一、三塁の場面で、先発西勇から岩貞にスイッチ。その岩貞がいきなり適時打を浴び、同点に追いつかれた。「あそこで俺、マウンドに行けばよかったなという自分なりの反省があって」。巨人とのデッドヒートの様相を呈してきたペナントレースに、もう寸分の悔いは残したくない。迷ったら前へ。矢野監督は動き、ハートを打たれた伊藤将も最高の結果で応えた。

指揮官の気迫は、野手にも伝わった。直後の8回にはサンズ、糸原、マルテの3タイムリーを含む5本の長短打が飛び出して3得点。低調だった打線が4試合ぶり2桁の14安打で5得点を奪い、投打のかみ合った勝利になった。ナイターで2位巨人が勝ったため、1・5ゲーム差はそのまま。4日に阪神負け、巨人が勝てば首位から陥落する危機は変わらない。だが、指揮官異例の行動が、チームを再び1つにしたことは間違いない。一丸で森下撃ちに挑む。【桝井聡】