自分を信じて5度、首を振った。西武渡辺勇太朗投手(20)が初先発登板で、自分を貫いた。5回無死一、二塁。辰己に対しカウント3-2で、捕手・森のサインに振り続けた。「もう後悔はしたくないので、自分の一番自信のあるボールを選択して投げさせてもらいました」。カットボールを投げ込みどん詰まりの三ゴロ。1点こそ許したが、5回4安打でプロ3年目で初勝利を手にした。

今季は初のキャンプ1軍スタートも、開幕1軍は逃した。2月の実戦登板では最速153キロの直球が130キロ台まで落ちた。「自分はもともとメンタルが強い方ではない」。メンタルトレーナーと契約し意識改革に乗り出した。「プライドを捨てました。そこから自分は本当に変わったと思います」。トレーナーからの「ミットめがけてロボットのように投げ込め」の助言を受け実践。6月に初めて1軍出場を果たすと中継ぎ8登板を経て、先発を託された。

3年目に掛ける思いは強かった。オフには内海に弟子入りを志願。「言われなくても呼ぶつもりやった。めちゃめちゃ走るぞ」と言われ身は引き締まった。世界遺産にも登録された奄美大島での自主トレ初日、準備してきた体をチェックされ「しっかりやってきたな」。期間中、心に刺さった言葉は「内海さんノート」に書き留めた。刺激と緊張の日々を過ごし、結果に結びつけたお立ち台。「師匠と慕っている内海さんと同じメットライフで、初勝利を挙げられたので本当にうれしく思います」と高らかに成長を報告した。【栗田成芳】

<渡辺勇太朗(わたなべ・ゆうたろう)>

◆生まれ 2000年(平12)9月21日、さいたま市。

◆経歴 埼玉・浦和学院から18年ドラフト2位で西武入団。高校3年の夏に甲子園出場、準々決勝でロッテ藤原、中日根尾ら擁する大阪桐蔭に敗れベスト8。

◆すし職人 ドラフト指名後の入団交渉を、母校の先輩らも使っていた「割烹 浜寿司」で行った。入団に合意すると板前姿に着替えてすしを握った。握りの指導をした大将の太田さんは、日本ハム吉田輝星の親戚で、店内にはサイン色紙が飾られている。

◆ものまね 入団会見で特技を聞かれ、エンゼルス大谷の打撃フォームのものまねスイングを披露。その勢いで二刀流を宣言するも、即座に撤回。

◆座右の銘 吾道一貫。「内海さんのような偉大な選手になれるように自分の道をしっかり貫きたい」。

◆サイズ 191センチ、91キロ。右投げ右打ち。

○…捕手・森は渡辺の首振りに納得の表情だった。5回無死一、二塁で、カウント3-2からサインに4度首を振り、仕切り直してもさらに振った。最後はカットボールで打ち取り「首を振れるだけ、本人の中で感じたものもあるでしょうし、振らずに全部うなずいて投げてくる投手もいますが、(渡辺の)気持ちのあらわれ。首を振った後に投げてきた球がすごく良い球だったのも良かったなと思います」と受け止めた。

▽西武辻監督(7番以降の呉念庭、愛斗、岸が奮起)「彼らは今レギュラーを取りたい気持ちで必死にやっていると思うので、それを代えるのは簡単ですけど、本当に一人前になるためには、こっちもある程度腹くくってやらないといけないんでね」