スロー映像で確認すると、キャッチャーミットをはめた左手首はきっちり三遊間方向に返されていた。この一瞬のために、毎日どれだけの時間を費やしてきたのだろうか。想像して勝手に感慨深くなった。

2位阪神は先週末、3位巨人との東京ドーム3連戦を2勝1分けで乗り切った。3日連続で手に汗握る激闘を見届け、あらためて初戦のサヨナラ阻止、執念ドローが作り上げた流れの強さを認識させられた。

24日、9回表に1点差を追いついた直後の9回裏1死満塁。前進守備の中野拓夢が6番丸佳浩の三遊間ゴロに飛びつき、間一髪で三塁走者のホームインを防いだ、あの名シーンだ。

中野のダイビングと素早い本塁送球は誰の目にも超ファインプレー。一方で、目いっぱい伸ばした右足でホームベースに触れながら、一塁側にそれたハーフバウンドをミットに収めた坂本誠志郎の「神キャッチ」も各方面を唸らせた。

「僕、バックハンドが下手なんですよ」

以前、坂本は苦笑いしていた。課題克服へ、今季から藤井彰人バッテリーコーチとマル秘特訓に取り組んでいることはあまり知られてない。試合前練習の空き時間を見つけては、遊撃や三塁でノックを受ける。足腰や肩の強化、そしてバックハンドキャッチの向上に人知れず尽力していたのだ。

「スローイングはキャッチングから。ちゃんと捕球できれば、いい送球ができる、ということで」

藤井コーチといえば、球界屈指とも評されたキャッチング技術の持ち主。ボールが来る方向に対してミットで面を作る。来る日も来る日も地道に練習を続けた成果を、シーズンの行方を占いかねない重要な一戦の、しかも勝負どころで実践できたという訳だ。

あの瞬間、少しでもミットの角度にズレがあれば、ボールがこぼれていた可能性は十分にあった。捕球直後、うれしそうに目尻を緩ませていた藤井コーチの表情がまた印象的だった。

坂本は今季ここまで31試合出場。正捕手は東京五輪金メダリストでもある梅野隆太郎と壁は厚い。24日の巨人戦も出場予測は立てづらかったはずだが、途中出場でビッグプレーを決められるだけの準備を怠っていなかったのだろう。

「自分のためになることは絶対、チームのためにもなる」

「僕はホームランを30本打つことはできない。でも、捕手としてチームに勝ちをプラスできる可能性はある。そこに懸けるのがプロだと思っています」

そんな信念はもちろん、1度の成功ぐらいで浮つかない。巨人3連戦最終日の試合前練習。坂本はいつも通り遊撃に入り、藤井コーチのノックで三遊間ゴロにバックハンドを伸ばしていた。【佐井陽介】