連続写真で選手のフォームをひもとく「解体新書」。今回は巨人岡本和真内野手(25)、DeNA牧秀悟内野手(24)、阪神佐藤輝明内野手(23)の打撃を日刊スポーツ評論家の和田一浩氏(49)がチェックしました。いずれも今季の開幕4番を担ったセ・リーグを代表する強打者。それぞれのスイングを比較しながら分析しました。

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セ・リーグの強打者といえば、この3人の打者が入ってくるだろう。

巨人の岡本和、阪神の佐藤輝、DeNAの牧。岡本和はプロ入り8年目を迎える25歳。ともにプロ2年目の牧は24歳で、佐藤輝は23歳。プロでの年数は高卒の岡本和が上で、2年連続で本塁打&打点のタイトルを獲得。実績は岡本和がリードしているが、牧も佐藤輝も同世代のライバルといっていい。2人にとって岡本和は乗り越えなければいけない“壁”だろう。この3人のスラッガーの打撃を比較してみよう。

それぞれの構えを見てみる。岡本和と牧は同じ右打ちで、(1)では軸足に重心を乗せて構えている。2人ともバットを立て、グリップは体から離してホームベース側の位置にある。

利き腕でもある右腕の肘が、打ちにいく時に体の前に入りやすくするためだろう。特に岡本和は調子が悪くなると、(2)の時に背中側にグリップの位置が入り過ぎる癖がある(今回の写真では入り過ぎていない)。こうなると右肘が体の前に入りにくくなり、バットが外側から出やすくなる。最初からグリップの位置を体の前から離して構えることでスペースを作り、背中側に入り過ぎないようにしているのだと思う。

右投げ左打ちの佐藤輝の(1)は2人とは正反対といっていい。重心は真ん中で左脇を大きく空け、グリップの位置も高い。重心は真ん中でもいいのだが、左腰にもう少し力感がほしいところ。バットのヘッドも最初から投手側に入れている。

後ろに位置する左腕が利き腕ではないため器用に動かせないのだろう。だからあらかじめ上半身でトップの形を作っておき、そこからグリップの位置が変わらないように(3)→(4)で右足を踏み込んでいる。

トップの形を比べたかったが、ジャストのタイミングで写っているのは佐藤輝の(4)だけ。右足のスパイクからグリップの位置までの距離が長く、迫力がある。

岡本和の(2)も負けていない。トップの形ができる一瞬前のタイミングだが、踏み込んでいる左足のスパイクとグリップの位置の距離が佐藤輝と同じように長くとれている。パワーヒッターの共通点といっていい。

一方、牧のトップの瞬間は(3)と(4)の中間で写っていない。ただ、(2)~(4)に移行する際、少しだけ体が投手側に寄っていってしまっている。トップの瞬間の写真はないが、左足のスパイクとグリップの距離が佐藤輝、岡本和に比べ短いのが想像できる。

牧は生粋の大砲タイプではない。私も同じだが、大砲と中距離砲の間のタイプ。トップがやや浅めだが、(5)以降のバットコントロールが素晴らしい。この写真で打ったのは内寄りのツーシームでレフト前ヒットにしている。やや差し込まれ気味に見える(5)から、(6)では左肘を少し抜くように使って左脇を空け、体の中でボールを捉えられている。タイミングの取り方がうまく、両肘を柔らかく使える天性の資質といっていい。

4番としてもう少しホームランを増やしたいのであれば、(7)と(8)の改善が必要だろう。(7)では既にバットのヘッドが上を向いてしまっている。これは手首が返るタイミングが早いからで、ヘッドを押さえるように使えれば飛距離は伸びると思う。

佐藤輝の改善点は(5)と(6)。内寄りのシュートをライト前ヒットにしているが、トップを作ってから(5)でグリップの位置が真下に落ちている。だから(6)では左肘が体の横についてしまい、左の腰にたまっていた力が解けているのが分かるだろう。バット軌道も(7)→(8)にかけてヘッドが外めから入ってしまっている。

それを補っているのが「遠くに飛ばす才能」だろう。インパクト後の(8)を見てみるとミートした後でも手首を返さず、バットのヘッドを押さえ込むようにしてフィールド内に出せている。これが打球にバックスピンをかける秘訣(ひけつ)で、天性の長距離砲であることを証明している。

この牧と佐藤輝の改善点をすべてクリアしているのが、岡本和のフォーム。打った球は、やや外寄り低めのストレート。(3)→(4)で右肩が少しボールに寄っていくような動きになっているが、これは外角低めを打ちにいっているからで、問題はない。

このボールをバックスクリーン方向へのホームランにしている。牧、佐藤輝と違い内角球ではないが、ホームランにするのは難しい球。(1)~(11)に至るまでほれぼれするような完璧なフォームで打てている。

たまたま岡本和だけがホームランにしているフォームで、よく見えるのは当たり前だろう。調子を落とす期間がやや長いのが気になるが、好調時の岡本和は手がつけられないような結果を出す。3年連続2冠を目指す岡本和に対し、佐藤輝と牧にヤクルト村上を加え、レベルの高いタイトル争いを見せてもらいたい。(日刊スポーツ評論家)