阪神大山悠輔内野手(27)がプロ2度目の1試合3発で奇跡の6点差大逆転勝ちを導いた。「日本生命セ・パ交流戦」の日本ハム戦で、終始劣勢の2回と4回に2打席連発、8回には試合をひっくりかえす口火の12号ソロを放った。試合は16年ぶりに甲子園に凱旋(がいせん)した新庄BIGBOSSペースだったが、今季最多観衆の熱気の中、虎の主砲がネバーギブアップを体現。負ければ再び自力Vが消えた危機を救った。

   ◇   ◇   ◇

その放物線を見れば、我慢できるわけがない。4万2574人の大歓声。大山の打球がスタンドに着弾する前から、もうみんな分かっていた。12号ソロでついに6-7。三塁側ベンチの新庄監督の前を悠然と通過し、破顔するナインが待つ一塁側ベンチに飛び込んだ。新庄BIGBOSSの16年ぶり甲子園凱旋試合で引き立て役になりかけていた試合。今季最多観衆が詰めかけた満員札止めの甲子園は揺れるように、沸きに沸いた。

「いやもう、誰一人諦めている選手はいなかったですし、とにかく塁に出る、1点でも追いつく。その気持ちだけでした」

最大6点差あったビハインドは8回、2点差になっていた。1死で迎えた第4打席。左腕堀に2球で追い込まれても微動だにしない。3球目。内角145キロをしばき上げ、ついに1点差に迫った。そこから4点を奪いついに逆転。4年ぶり2度目の1試合3発から、大どんでん返しを導いた。

序盤からBIGBOSSペースだった。諦めない「大山劇場」の始まりは3点ビハインドの2回先頭。先発上沢の初球144キロを捉え、10号ソロを左中間席へ運んだ。5年連続2桁弾。6点差に広げられた4回1死では、上沢の初球146キロを中堅左へ飛ばした。「完全にあっちに行きかけた流れを少しは取り戻せたかなと思います」。どれを欠いても劇勝はなかった。

2月のキャンプから何千、何万とバットを振る中で貫いてきたのは「一振りで仕留める」こと。プロ6年目。豪快な1発の裏で数え切れないほど苦汁をなめてきたからこそ、たどり着いた1つの答え。「相手も抑えようと必死。その中で1発で仕留めないと意味がない」。3発はいずれもファーストスイング。「一振入魂」だった。

「1球を仕留めるというところはずっと課題。でも、こういう大事な試合でできたのはよかった。しっかり続けられるようにやっていきたい」

交流戦10戦5発の量産には「スコアラーさんをはじめ感謝を忘れずに」と付け加えた。負ければ自力Vが再消滅した崖っぷち、新庄監督に主役は譲らなかった。「今日は今日で終わり。しっかり切り替えたい」。諦めない虎の先頭を大山が走り続ける。【中野椋】

 

▽阪神矢野監督(3本塁打の大山に)「センター方向に悠輔がホームランが出だすと、やっぱりいい状態だなという感じがある。悠輔らしいね、高い放物線を描いた素晴らしい3本。(8回の3発目は)あそこで1点差になることで相手も余計プレッシャーがかかったと思う。そういうところの流れを悠輔がつくってくれたのは大きかった」

 

○…4番の佐藤輝が連続試合安打を今季最長の7に伸ばした。6回先頭で、中前に痛烈なライナーを運びこれを足場に2得点。5-7と2点差まで詰めた。上沢をこの回限りで降板させる貴重な一打になった。2年目での現11球団制覇弾はお預けとなったが、今年2月の練習試合で新庄監督から「ナイスバッティング」と声をかけられ、「素晴らしい」と打撃を絶賛された主砲が成長を見せた。

 

○…藤浪が2番手で2回を0封し、逆転への流れを作った。3回7失点で炎上した先発ウィルカーソンに代わって4回から登板。1死から万波に内野安打を許したが、野村と清宮をともに二ゴロに料理。5回も上川畑に右前打を許したが後続を断った。5月31日に再昇格後、3試合5イニングを無失点。「任された仕事はまっとうできたかなと思います」と振り返った。

 

○…岩崎が10セーブをマークした。2点リードの9回。浅間と野村にヒットを浴びて1死一、二塁のピンチを招いたが、落ち着いていた。この日2安打の4番清宮を143キロ真っすぐで見逃し三振。最後は首位打者の5番松本剛をチェンジアップで二ゴロに泳がせて試合を締めた。阪神左腕の2桁セーブは04年のウィリアムス以来。生え抜き左腕では93年の「たむじい」こと田村勤の22セーブ以来、29年ぶりとなった。

 

○…青柳が17年以来、約5年ぶり2度目の日本ハム戦でハーラートップタイの6勝目を目指す。4日の同戦に先発予定。BIGBOSS軍団相手に「(17年とは)全く別のチーム。いろいろ仕掛けてくるのは分かっていますけど、塁に出さなければいいだけ」と引き締めた。球宴ファン投票の中間発表ではセ先発部門で堂々の1位。「まだ抜かれる可能性もあるので、自分のできることを頑張りたい」と白星を重ねていく。

 

○…北條が今季初打点を挙げた。5回無死三塁、藤浪の代打で登場し、しぶとく三遊間に適時内野安打。チャンスを確実に生かし、4点差とした。8打席目での1打点。「追い込まれていたので最低でもゴロを打って、どんな形でも走者をかえすことだけを考えていた。いいところに転がった」と振り返った。

 

▽阪神糸原(6回に3点差に迫る適時打)「追い込まれていたので、なんとか食らいついて次につなぐという気持ちだった」

▽阪神山本(8回1死満塁の代打で右前に同点適時打)「なんとか次につなぐという気持ちだった。チーム全体で盛り上がってくれてすごくうれしいですし、こういうところで打てて自分の自信につながる」

▽阪神島田(同点の8回1死満塁で決勝点を呼ぶ押し出し四球)「もう気合です。気合で見逃しました! 最高でした。ヤスさん(山本)が渋い一打を打ってくれたので、何とかみんながつないできたものを、絶対に僕もつなぐんだという気持ちで打席に立ちました」

 

▼阪神、ヤクルトがともに勝ったため、阪神の自力優勝消滅は前日と変わらず、最短は1日延びて4日となった。条件はヤクルト○のときは阪神△か●。ヤクルト△なら阪神●。

▼阪神の6点差逆転勝ちは、20年11月5日ヤクルト戦(甲子園)以来。このときも1-7から逆転で、8-7で勝利した。また、今季は3点差以上からの逆転勝ちは初めて。2点ビハインドからの逆転勝ちが最大だった。

▼阪神大山が18年9月16日DeNA戦(横浜)以来、4年ぶり2度目の1試合3本塁打。1試合3本塁打以上を2度以上記録した阪神の打者は、カークランド2度(68、70年)田淵幸一3度(73年2度、76年)金本知憲2度(09年2度)に次いで4人目。阪神の選手に限らず、甲子園球場で1試合3本塁打以上は11年7月30日阪神戦でスレッジ(横浜)が3本打って以来11年ぶり。

 

【関連記事】阪神ニュース一覧