初球宴を終えた阪神大山悠輔内野手(27)が28日、背番号3の進化を追う日刊スポーツ独自企画「比べるのは昨日の自分」で、後半戦に向けた覚悟を明かした。今回のテーマは「左翼への本音」。一塁を守る新外国人ロドリゲスの1軍昇格に伴い、今後は好守続きだった一塁ではなく、慣れない左翼での出場機会増加が確実。それでも後半戦初戦となる29日ヤクルト戦(甲子園)を前に、主砲は冷静で前向きだ。【取材・構成=佐井陽介】

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大山の胸中は至ってシンプルだった。

「正直、気持ちはいつもと変わらないですよ。なんでレフト? とか、そんな気持ちは全くない。レフトを守ってくれと言われたら頑張る。それだけです」

新助っ人ロドリゲスの1軍昇格に伴い、23日DeNA戦から慣れない左翼に再び守備位置を移った。本職の三塁から一塁、そして左翼…。チーム最多の20本塁打、67打点を記録しながら目まぐるしくポジションが変わる状況に、周囲からは異を唱える声も聞こえてくる。ただ、当の本人はどこまでも冷静にチーム事情を受け入れていた。

「勝つためにどうしたらいいのか、監督、コーチが考え抜いてくれている中での決断ですから。そもそも文句を言っても仕方がないし、チームの得にもならない。文句を言う暇があるなら、準備した方がいい。自分はそういう考え方です。だから、レフトに関しても前向きにやっています」

昨秋から有事に備えて左翼練習を開始。沖縄自主トレ、春季キャンプ期間中も暇を見つけては左翼に向かった。4月下旬に負傷した左膝への負担を考えれば、まだ三塁には戻りづらい状況。わずかな可能性にも準備を怠らなかった数カ月間が今、効いている。

「あの時に練習しておいて本当に良かった。少し練習するだけでも全然違うので。もちろん、まだ他の外野手と比べて練習量が少ない。打球の追い方やフェンスまでの距離感も、もっと練習しないといけない。浜風はもちろん、雲の状況も確認しないといけないし、薄暮の時は注意が必要。まだまだ全然ですけど、外野守備を担当する筒井コーチや近本がポジショニングとかを細かく指示してくれて、本当に助かっています」

打撃面では主砲の貫禄が一気に増した。昨季までと比べて、勝負を避けられるケースが多くなった印象だ。自己最多の28本塁打を放った20年は116試合出場で41四球。昨季は129試合出場で37四球。それが今季は87試合出場ですでに40四球を記録している。

「確かに四球を取れている実感はあります。今まで振ってしまっていたボール球を今年は我慢できるようになってきている。ボール球を振って三振、凡打になる場面が減ってきた。毎日スコアラーさんたちと勉強して、少しずつ配球を読むこともできてきているのかな。その中で、やっぱりホームランにはこだわっていきたい。ホームランは一振りで流れを変えられる唯一無二のものなので」

球宴前最後のDeNA3連戦では22日に逆転2ラン、24日に決勝犠飛。チームは3連勝で最大16あった借金を完済した。開幕9連敗からの「奇跡のV字回復」が注目されるが、当事者たちの心意気は苦境時から変わらない。

「勝てない時期もなにくそという感情はありましたけど、周りの反応は気になりませんでした。マイナスな情報を見て落ち込むのはもったいないと考えているので。最初は勝率の低さがどうだとか言われていたみたいですけど、ここまで勝率が戻ることが想像できた人は少なかったでしょうしね。結局、終わるまで何が起こるか分からないのが野球。どこかが優勝する瞬間までは何も決まっていない。漫画の世界じゃないけど、『あきらめたらそこで試合終了』(※1)ですから。まだまだ終わっていないぞ、と思っています」

前半戦終了直後、矢野監督は「ドラマを起こす舞台は整った」と逆襲ののろしを上げた。首位ヤクルトに11ゲーム差の2位タイで残り49試合。攻守ともに全身全霊を尽くす背番号3のスタイルに、ブレはない。

 

※1…人気バスケットボール漫画「SLAM DUNK(スラムダンク)」で登場する安西先生の名言。正確には「あきらめたらそこで試合終了ですよ」。

 

◆大山の今季ポジション 開幕戦の3月25日ヤクルト戦から7戦連続で三塁先発。マルテ負傷離脱に伴い、4月2日巨人戦から28戦連続で一塁先発。マルテが1軍復帰した5月10日広島戦からは4月下旬に痛めた左膝の負担を考慮して、三塁ではなく主に左翼で先発。マルテが再離脱すると、5月26日楽天戦から7月22日DeNA戦までは出場38戦連続で一塁先発し、6月は月間打率3割1分8厘、10本塁打、29打点。