“引退試合”で勝利に貢献してみせた。今季限りで現役を引退するオリックス能見篤史兼任コーチが出場選手登録された。引退特例での登録ではなく、戦力としてのベンチ入りだった。

引退する選手とは思えないほど、しびれる展開で出番がきた。負ければ優勝が消滅する試合で、同点の8回に2番手で登場。高々と振りかぶるワインドアップから思い切り腕を振った。初球の145キロで場内をどよめかせ、3球で追い込むと、最後は外角への145キロ。「最後はなぜか指にかからず、球がおじぎしてしまった。なんか申し訳ない」。結果的に安田から空振りをとった。通算1517個目の奪三振。中嶋監督が直接マウンドに行ってねぎらうと、目を潤ませた。

現役最終登板になる可能性が高い。だが、この気迫の投球が連覇の望みをつなぐことになった。8回の残り2人を阿部が抑えると、その裏に勝ち越し。一気に球場のボルテージが上がった。9回に追いつかれたが、その裏に劇的なサヨナラ勝ち。ベンチの能見はこの日一番の笑顔を見せた。

球場には大量の花束が届いていた。08年の清原和博の引退時に匹敵する数だったという。試合前の円陣にもこの日の主役が“登板”した。「よっしゃ、この1試合、全力でいきましょう!」と声を張り上げてナインの士気を高めた。

試合後の引退セレモニー。「チームはまだまだ強くなります。本当に僕は幸せです」。今季、阪神戦以外では初の3万人超えとなる3万1442人の観衆から大きな拍手が起こった。自ら「選手」としてつないだ優勝の可能性。ドラマにはまだ続きがある。【柏原誠】

▽兵庫・久保康友投手(阪神時代の盟友)「すぐにメールを送りました。『お疲れさまです』と。『ありがとう』と返ってきました。最後までやり方がブレなかった。僕も能見さんも細かったけど、トレーニング方法が全然、変わらなかった。自分を最後まで貫いていた。俺は俺やし、と。体格が表していますよね」

▽オリックス中嶋監督(能見について)「どこで出すかばっかり考えていました。兼任は非常に難しい。誰も分かってくれない。その苦しみに耐えて、お疲れさまと。本当にいい仲間というか監督とコーチでもなく、監督と選手って感じでもなかった」

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