あれは今年9月中旬のことだ。まだ夏の日差しが残留していた甲子園の夕刻。どうしても気がかりで、率直な疑問をぶつけた。

あれだけスプリットを多投して、右肘に痛みは出ていないのか?

第三者の勝手な想像を、阪神藤浪晋太郎はサラリと笑い飛ばしてくれた。

「いやいや、全然大丈夫ですよ。自分は手首を返して投げるタイプなので。だから多少は張ったりもしますけど、そこまでではないんです。指の開きも広くはないですからね」

先発として一気に上昇気流に乗った晩夏、虎の背番号19は驚くほどスプリットに信頼を寄せていた。

8月20日巨人戦では全投球の31・5%、8月27日の中日戦では31・7%、9月3日巨人戦は37・1%、9月9日DeNA戦では39・5%…。

相当に無理をしているのではないかと想像しただけに、妄想が杞憂(きゆう)に終わってホッとひと安心した記憶が残っている。

一般的にフォークやスプリットといった「ボールを挟む球種」は肘に負担がかかりやすい。指を大きく広げて握るため、ただでさえボールが抜けないように肘付近の筋肉に力が入る。そのまま手首を固定してリリースする投手も多く、結果、パワーを肘で受け止めざるを得なくなる。

一方、藤浪の場合はそもそも他の投手よりも指が長く、ボールをつかまえやすい。どちらかというと指を大きく広げるフォークではなく、広げすぎないスプリット寄りでもある。しかも手首を固定させない投げ方だから、そこまで肘に負担はかからないというメカニズムらしい。

スプリットを多投できる-。この投球スタイルはメジャーの舞台を目指す上で、間違いなく強力な武器となりそうだ。

11月上旬、代理人のスコット・ボラス氏は藤浪のメジャー契約に自信をのぞかせていた。

「米国でも、球威があってフォーク(スプリット)がある投手はわずかしかいない。市場での需要は高い。多くの球団が必要とするだろう」

197センチの高身長から最速162キロの直球を投げ下ろし、米国球界では希少な落ち球も多投できる。敏腕代理人の強気には確固たる根拠がある。

制球難にも改善の兆しが見られ、スプリットの精度向上にも目を見張るモノがある。今季は奪三振数が比較的増えがちな中継ぎ登板が6試合あったとはいえ、16試合計66回2/3で奪三振率8・78。これは規定投球回到達者でトップとなる中日小笠原の8・71を上回る数字でもある。

「奪三振率が重視される時代。三振は捕手が捕ってさえくれれば成立する、事が起きづらいアウトの取り方でもある。取れるに越したことはない」

そう力説していた藤浪。いよいよポスティングシステム申請を終え、米国時間の12月1日から大リーグ球団との交渉が可能となった。

交渉期間は日本時間の1月15日午前7時までの45日間。投球スタイルの特長も鑑みれば、メジャー球団から評価される可能性は決して低くはなさそうだ。【野球デスク=佐井陽介】