プロ野球選手は郷土を変える-。ロッテ中森俊介投手(20)がその好例になる可能性を大いに秘めながら、来季の1軍デビューへと備えている。

兵庫・丹波篠山市の生まれ。明石商(兵庫)で甲子園をわかせ続け、20年ドラフト2位でロッテから指名された。その直後からすごかった。

中森の契約取材で神戸出張があり、せっかくだからと丹波篠山まで足を伸ばした。市街地を巡り、市役所にもアポなしで顔を出したら、酒井隆明市長(68)がわざわざ時間をつくってくれた。すごかった。

「中森君にふるさと大使をお願いしたいと思っています。地元の少年野球団、中学の部活動で育った子。市民からすると、自分たちの子どものように思っています。これからは市民みんながロッテファンです」

阪神ファンが多い街で堂々言い切った。リップサービスだけに終わらせない。後日、酒井市長は本当に中森ならびに球団サイドにふるさと大使を打診し、名産こしひかり「農都のめぐみ米」を450キロ寄贈。中森が普段食事をする球団寮などで提供されている。

さらに自治体としてロッテと地域連携事業のスポンサーシップ契約を結び、ZOZOマリンで冠ナイターを行った。ふるさと納税の返礼品に観戦チケットを用意し、ナイター当日には球場で丹波篠山をPR。酒井市長自ら、浴衣姿で伝統の「デカンショ節」を踊り、マリンの夏を彩った。「中森投手は、私たち市民の、自慢です。どうか皆さん、大きく、育ててやってください」。孫を思う祖父のような市長のスピーチは、ロッテファンの心を打った。

私もコロナ禍が少し落ち着いた今年5月末、丹波篠山を再訪した。市内数カ所の観光スポットをご紹介していただいた後、市役所に入るとあっさりと市長室に呼ばれ、いきなり“作戦会議”のオブザーバーに。形式的なものではなく、本気で中森を盛り上げ、地域活性化につなげようとする意気を感じた。

ヒーローへの後押しはどの街にも負けない。あとは本人の活躍だ。プロ2年目の今季は肩痛などコンディション不良に苦しんだ。しかし秋、吉井理人新監督(57)が「ほっとくといつまでも出てこない感じだったので、最後の最後だったんで」と宮崎でのフェニックスリーグに緊急招集。151キロを投げ、投手育成に定評ある新指揮官も「いい投手になる予感があります。ゴロと三振をたくさん取れる、理想的な、無敵な投手になってほしい」と未来図を描いた。

コシヒカリをしっかり食べて、体を強くして、ロッテのエースへ。丹波篠山市には、中森の力を借りながら世に発信したいことが山ほどあるようだ。例えば、その1つが学校給食。「全国学校給食甲子園」で見事に優勝し、レシピ本まで発行されるほどだ。眺めると、確かにうらやましいほどのメニューが並ぶ。中森自身は「黒豆を甘く煮たものと、揚げパンが好きでした」だそうだ。【金子真仁】