阪神坂本誠志郎はどうやら「勝ち試合」直後の取材が苦手らしい。

言われてみれば、確かに甲子園でも東京ドームでも勝利の後はどこか抑えめな語り口が印象深い。

でも一体なぜ?

素朴な質問をぶつけると、実に女房役の捕手らしい答えが返ってきた。

「本音は『頼むから自分なんかより投手に聞いてくれ』なんです。そもそも捕手がいくら配球を考えたって、投手がそこにいいボールを投げてくれないと始まらない。抑えられる時は、投手がすごいから勝てるわけですから。それに…次の対戦相手にヒントを与えたくないじゃないですか」

今季はここまで先発マスクをかぶった試合で18勝2敗。開幕6連勝中の大竹耕太郎や大ブレーク中の村上頌樹とコンビを組み、驚異の高勝率を誇っている。さぞかし試合後の取材現場は心地よい空間なのだろうと勝手に想像していたが、実情が正反対に近かったから少し驚いた。

「もちろん聞かれたことにはちゃんと答えたいと思っています。報道陣の皆さんのおかげでファンの方々に言葉を届けられるわけですから。ただ、やっぱり『投手がいいボールを投げてくれただけなのに』という恥ずかしさはありますよ。それにあまり抑えられた理由を明かすのもね…」

なぜ打たれなかったのか? あのリードにはどういう意図があったのか? 相手打線を封じ込めた時ほど、舞台裏を知りたくなるのが記者のさがだ。一方で先々の戦いを見据えれば手の内を明かしすぎるわけにもいかない。そのさじ加減がどうにも難しいようだ。

思い返せば、かつて坂本がバッテリーの関係を冗談まじりに例えてくれたことがあった。

「表現が正しいかどうかは分からないですけど、投手と捕手って夫婦の関係に似ていると思うんです。この人と一緒にいたい、この人なら任せられると思われる人間にならないといけない。オマエに受けてもらいたいと思ってもらえる人間にならないといけないと思っているんです」

あれからもう何年がたっただろうか。

成功した時は相手をたてる。失敗した時は自分がかぶる。勝利の余韻に浮かれすぎず、長いスパンで物事を考え抜く。

坂本は今も地道に理想像を追求しているように映る。【野球デスク=佐井陽介】