ついに出た! 敗戦の中で阪神の左の大砲候補、前川右京外野手(20)がプロ初安打で輝きを放った。2点ビハインドの7回先頭。楽天の2番手右腕、宋家豪の139キロチェンジアップを右前にクリーンヒット。11打席目で待望のHランプをともした。「うれしかったです。全く打ててなかったのでその分、今日打ててよかった」。記念球は「家族かおじいちゃんに渡したい」と笑顔で明かした。

続く無安打地獄で、生き残りに必死だった。5月30日に1軍初昇格。即スタメン起用されたが、同31日の西武戦で3三振するなど、苦しい日々を送った。打開へ向け、水口打撃コーチから、上からたたくイメージの打撃フォームに修正する助言を受け、5日から微調整。結果につなげた。「初めは自分の間合いで入っていけなかったけど、練習から余裕が出てきました」。岡田監督も「ストライクゾーンをしっかりスイングできたらいい結果出るやんか。だんだん成長している過程やと思う」とたたえた。

もどかしい日々が続いていた。1年目の昨季は3月の巨人とのオープン戦(甲子園)でマルチ安打の鮮烈デビュー。だが、開幕1軍も見えた3月末に上半身のコンディション不良で長期離脱した。復帰と離脱を繰り返し、今季も1軍キャンプ招集直前に故障離脱するなどケガに泣かされた。「もう最悪や…。終わった」。だが、失意のどん底でもウエートトレーニングに力を入れるなど、体づくりは怠らなかった。睡眠の質や体の仕組みも勉強。日々の精進を怠らずはい上がった。

岡田監督から「そらもうドラフトで取った時から『コイツはええなあ』思っとったよ」とホレられた逸材。前川は笑顔をしまった。「ちょっとほっとしたけど活躍して結果を残さないと。気を引き締めて頑張ります」。本領発揮はここからだ。【三宅ひとみ】

「本当に感無量です」

前川の父栄二さん(51)も息子のプロ初安打を静かに喜んだ。三重県の自宅でテレビ観戦。「1軍に上がってからも本人が苦しんでいたのを見ていたから、本当に感無量です」と安堵(あんど)していた。父は、途中出場で甲子園デビュー戦となった5日ロッテ戦は現地観戦。陰から欠かさず応援してきた。「ヒットは出なかったけど、実際に甲子園の打席に立っている姿を見ているだけで、感動していました。今日はファーストストライクから振っていた打席もあったから、どうかなって思っていた。本当によかったです。苦しい状況でもチャンスを与えて出してくださった岡田監督に感謝しかありません」。三重から活躍を見守っていく。

◆前川右京(まえがわ・うきょう)2003年(平15)5月18日生まれ、三重県出身。智弁学園(奈良)では甲子園に、1年夏に津田学園(三重)の兄夏輝(当時3年)と同時出場し、3年春夏も出て夏は同校過去最高の準優勝に貢献。高校通算37本塁打。21年ドラフト4位で阪神入団。今季はウエスタン・リーグで32試合に出場し、36安打、2本塁打、15打点、打率3割6分。176センチ、86キロ。左投げ左打ち。今季推定年俸500万円。