先週、久々に広島堂林翔太と言葉を交わした。4月10日。阪神-広島2回戦の試合前練習中、甲子園三塁ベンチ付近でたまたまタイミングに恵まれたのだ。

こちらは10年前の14年に1年間だけ広島担当を経験しているが、記者歴の大半を阪神取材に費やしてきた立場。「冷やかしにきたんすか?」などと軽口をたたかれながら、少しだけ現状を尋ねた。すると、堂林は「察してくださいよ」と言わんばかりに苦笑いした。

「なかなかうまくいかんすね…」

言葉の意味はわざわざ確認するまでもなかった。

前日9日のナイター終了時点で打率2割9分6厘。個人成績だけを見れば、上々のスタートを切ったように映る。一方、チームは前夜の時点で36イニング連続無得点、4試合連続完封負けを喫していた。

「僕のことはどうでもいい。大事なのはチームのことですから」

プロ15年目の32歳は新選手会長に就任した今季、開幕から先発時は4番起用が続いている。「僕は『4番』じゃなくて『4番目』ですから」。そう強調しつつ、どうしてもチームの浮沈を背負い込んでしまう。「4番」とはそれほどの重責なのだろう。

4月10日の夜、広島は初回に連続無得点を止めて快勝。試合後、堂林は自身の3安打よりもチームの連敗ストップに心の底から安堵(あんど)していた。

「勝って何よりです。勝てたことが良かった。とにかく勝てばいいんです。自分のことよりもチームのことなので」

そんな言葉に耳を傾けながら、今度は相手チームの4番の心情を考えた。

時代は令和。ドジャース大谷翔平の2番スタメンが続いている通り、もうメジャーでは「4番=主砲」という概念は失われつつある。とはいえ、日本ではまだ4番の背中にのしかかる責任は極めて重い。超人気球団の4番となれば、そのプレッシャーは想像を絶するレベルに違いない。

「勝てば全員の勝利。負ければ全部自分の責任だと思ってやっています」

数年前、阪神大山悠輔は真剣なまなざしで言葉に力を込めていた。そこまでの決意が走攻守からにじみ出ているが故に、人は4番の悲喜こもごもに心を動かされるのだろう。

タイガースの背番号3は現状、不振に苦しんでいる。下半身のコンディションに不安を抱えたまま開幕を迎え、いまだ打率1割台。昨季全試合4番スタメンで18年ぶりのリーグ優勝、38年ぶりの日本一に導いた男が、4月14日の中日戦(バンテリンドーム)ではついに打順を5番に移した。

チームもまだ借金を抱えている状況。人一倍責任感が強い男の心中は察するに余りある。だからこそ、次はその覚悟と練習量が報われる瞬間も待ちたくなる。【野球デスク=佐井陽介】

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