<巨人4-5阪神>◇7日◇東京ドーム

 巨人が幻の本塁打に泣いた。2点を追う阪神戦の7回1死一、二塁、アレックス・ラミレス外野手(33)の左翼への本塁打性の打球をスタンドの阪神ファンがたたき落とし、二塁打となった。本塁打なら3ランで逆転となっており、原辰徳監督(49)が猛抗議したが判定は覆らなかった。4-5で2連敗となり、巨人と首位阪神との差は8・5ゲームにまで広がった。

 信じられないことが起こった。2点を追う7回1死一、二塁、第1打席で本塁打を放っていたラミレスが2球目の低めに落ちるチェンジアップをたたいた。打球は低いライナーで左翼席最前列に飛び込んだかに見えた。しかし、黒いヘルメットをかぶり黄色い法被を着た阪神ファンの男性が身を乗り出して右手を伸ばし、打球をたたき落とした。落ちた打球はフェンス最上部に当たりグラウンドへ戻ってきた。

 打ったラミレスは二塁ベース上で「本塁打じゃないのか?」と両手を広げた。審判団の協議の間、右翼スタンドからは「ホームラン、ホームラン」の声援が飛んだ。協議後、審判団からの説明は、観客が打球を邪魔したことにより二塁打で試合を再開するということだった。巨人ファンからはブーイングが飛び、原監督も落ち着いた表情ながら4分間、猛烈に抗議した。

 本塁打ならば逆転弾だった。木佐貫が3回に金本の頭部に死球を当て、危険球退場した後、藤田、門倉、山口と必死につないで反撃のチャンスを待っていた。しかし、千載一遇のチャンスは阪神の選手ではなくファンによって阻止されてしまった。

 原監督は3ランなら逆転だったという問いにフンと鼻で笑った後、「グラウンドで必死に覆すべく、全力を出したわけだから。あとはメディアというか、周りが」と、そこまで言ってから「そんなこと言ってもね」と、覆りようのない判定に口をつぐんだ。そして「もう少しねちっこく勝負を挑んでいかないと。しつこい勝負師集団にならないと」と、むしろ2回無死満塁のチャンスを生かせなかったことを反省した。

 清武球団代表は試合後、原監督とも相談し「今日の誤審について、審判団に強く指摘することはありません。リプレーを見て手に当たらなかったら入ったと確信してますが、審判の決定は覆りませんから」と、抗議や提訴はしない考えを示した。その上で、ビデオ判定の導入について「こういうことをなくすためにメジャーでは取り入れようと進めている。(日本でも)考える契機になればいい」と話した。この日はできなかったが、審判団の協議中、大型ビジョンでスロー再生を繰り返すなど、ホームならではの後押しがあっても良かったかも知れない。

 試合後、ビデオで確認したラミレスは「厳しい判定だ。あれが本塁打ならそのまま勝てたと思う。僕もナインも人に当たらなかったら本塁打だと確信している」と残念がった。1勝と本塁打1本と2打点を損したが「起こったことをくよくよしてもしょうがない。前向きにプレーしたい」と気持ちを切り替えた。すんなりとは受け入れ難い敗戦だが、これで首位阪神とは今季最大の8・5ゲーム差。つらい現実だけが残ってしまった。【竹内智信】