<ヤクルト5-12阪神>◇29日◇神宮

 たった一振りで、球団史を塗り替えた。それはもう42歳の打球ではない。打った瞬間に、誰もが打球の行方を確信する。打った本人もまた、両手に残った感触で着弾点に視線を送ることはなかった。阪神金本知憲外野手(42)が、42歳では球団最多となる13号ソロを神宮の夜空に打ち上げた。

 2回の第1打席。カウント1-2から、ヤクルト先発山本斉の直球を仕留めた。この日のファーストスイングから放たれた白球は、あっという間に右翼席中段へ。完ぺき過ぎる1発に、金本はいつものように視線を下に落としたまま、ダイヤモンドを1周した。「本来の姿に近づいているね。本塁打だけでなく、ヒットの打ち方もそう。内容と結果が伴ってきている」。3、5回にも安打を放ち、今季3度目の猛打賞を記録した金本に、和田打撃コーチも復調を確信した。

 後半戦開始直前の7月下旬。右肩痛で前半戦は思うような仕事ができなかった金本は、首位争いの正念場となる8月の活躍を公言していた。「前半戦の悔しさ、うっぷんを後半戦で晴らす。具体的に言うなら、チームを勝ちに導く1本を打つ。どうすればチームが勝つか。それを念頭に置いて戦う」。宣言通り、8月は今季自己最多となる月間4本塁打を記録。その打ち分けが勝ち越し弾3本、決勝弾1本と、本来持つ勝負強さで優勝争いを演じるチームを支えている。

 この日はもう一つ、刺激を受けて臨んだ試合でもあった。試合前練習中に、親交のある俳優・渡辺謙氏が球場を訪問。激励を受けていた。万全の状態なら、75年アルトマンが樹立した球団記録、42歳でのシーズン最多本塁打を越えていたかもしれないが、そんな世界的俳優を前に新たな勲章を手にする姿が、いかにも金本らしい。

 [2010年8月30日11時42分

 紙面から]ソーシャルブックマーク