<西武2-0ソフトバンク>◇12日◇西武ドーム

 5年目の左腕が2年ぶりの先発で快投を演じた。西武武隈祥太投手(22)が、8回1死まで無安打に抑えてプロ2勝目を挙げた。5回から両脚の筋肉がつってしまうギリギリの状態の中、気力で好投。開幕ローテを務めた先発陣が次々と離脱していく中、雌伏の時を経て07年ドラフトの「隠れ1位」が救世主に名乗りを上げた。

 武隈に残る力は、気力だけだった。8回1死、こん身の直球を内角にぶち込んだ。フラフラッと左前に飛球が上がる。左翼栗山の猛ダッシュも及ばず、グラウンドにポトリ。117球目で初めてHランプがスコアボードに刻まれた。「杉内さん、前田健太さんときて、武隈って…。できなかったですけど、半分の運を使っちゃったかも」。照れ隠しとほんの少しの本音が入り交じった言葉だった。

 試合後のほんわかした雰囲気とは対照的に、マウンドでは満身創痍(そうい)だった。5回から両脚がつる危機的状況。「どことかじゃなく、足の全体」に広がる痛みとの闘いだった。

 武隈

 昔の僕だったら、投げられません、と言ったかもしれないです。でも、こんなチャンスは2度とないと思ったので行かせて下さい、とお願いした。

 刻々と増す痛みとノーヒットへの期待。ベンチに戻る度に、トレーナーからマッサージを受け、あとは根性でマウンドに立ち続けた。8回2死一塁、降板する武隈を大歓声が包んだが「痛くてそれどころじゃなかった」と苦笑いを浮かべるしかなかった。

 裏金問題の処分で、西武は07年ドラフトで上位2選手の指名権が剥奪された。実質は4巡目指名だが、“隠れ1巡目”での入団だった。5年目の今季は開幕1軍入りも、1、2軍を往復。岸、石井、西口と先発ローテが次々に離脱する中、谷間で巡ってきた今季初先発のチャンスだった。「先発は昨日(11日)、言われて。ダメだったら、今年はもう終わるなと。それくらいの覚悟だった」。表情は穏やかでも、気持ちは崖っぷちだった。

 最速は139キロでも、スライダー、チェンジアップをコーナーに投げ分けた。巧みな投球術に、いつも以上の闘争心。弱気な虫が顔を見せる場面は1度もなかった。プロ2勝目だが、先発では初勝利。ウイニングボールは2日前に誕生日だった父幸雄さんにプレゼントする。「次、投げられる保証はないですが、先発でも何でも、しっかり準備したい」。西武投手陣に、また新たな若獅子が加わった。【久保賢吾】<武隈祥太アラカルト>

 ◆北海道大会登板なし

 1989年(平元)11月24日、北海道・東神楽町生まれ。旭川工時代は左肘、肩痛や左手人さし指骨折などケガが多く道大会登板は1度もなし。公式戦登板は8試合のみ。180センチ、79キロ。左投げ左打ち。血液型A。

 ◆隠れドラ1?

 07年高校生ドラフト4巡目指名。西武は不正スカウト活動のペナルティーで、上位2選手の指名権を剥奪され4巡目からの参加だった。

 ◆工藤2世?

 同じ左腕のオリックス星野伸之コーチが高校の大先輩。08年新人合同自主トレ時、渡辺監督は「腕の振りがいい。若いころの工藤(公康)さんのイメージ」と絶賛。ニックネームは「クマ」。

 ◆通算成績

 23試合2勝0敗、防御率3・73。