<日本ハム1-3西武>◇29日◇札幌ドーム

 西武菊池雄星投手(21)が、プロの階段をまた1歩駆け上がった。首位攻防第2ラウンドの先発を託され、8回を3安打1失点で今季3勝目。3回に併殺の間に1点許したが、4回以降は5イニング連続で無安打に抑え、打線の援護を呼び込んだ。渡辺久信監督(47)は「プロらしい選手になったかな」と称賛。指揮官をうならせる快投を見せ、2位日本ハムとの差を2ゲームに広げた。

 残った気力と体力を1球に込めた。2点リードの8回2死一、二塁、菊池がウイニングショットに選んだのは、昨オフから取り組むカーブだった。球界屈指の勝負師・二岡を空振り三振。全力疾走でベンチへ向かうと、渡辺監督に握手で迎えられた。「投げ切れて良かった。今年一番の出来でした」。握り締めた手には、確かな信頼感があった。

 プロとして、成長を示した106球だった。3回、無死満塁のピンチを迎えたが、併殺の間の最少失点で脱出。4回以降は最速147キロの直球、カーブ、スライダー、フォークを丁寧に投げ分け、安打さえ許さなかった。150キロの数字に縛られ、力任せで自滅したのは過去の話。7キロ増え、90キロに増量した体とともに、冷静な心が加わった。

 最も進化を感じ取ったのは、渡辺監督だった。8回2死一、二塁、代打二岡の場面で続投を決断。「あそこは任せたと。今日のボールならいけると思ったし、これも試練。あそこを抑えてこそ、成長できる」と最大の勝負どころを託した。「一皮むけたかなと。3年目だけど、プロらしい選手になったかな」と語った言葉がすべてだった。

 今の姿を開幕直後は、想像もできなかった。開幕1軍入りを逃し、2軍でも結果が伴わず。「落ち込んでなんか、いないですよ」と言いながら、いつもの明るさは消えた。人知れず、自分自身と闘う日々の中、はい上がらせたのは、大好きな長渕剛の歌だった。お気に入りは「Myself」。自身の姿と歌詞を重ね合わせ「真っ直ぐ生きてえ」のフレーズに、心を奮い立たせた。

 菊池

 長渕さんも九州から出てこられて、トップまでのし上がられた。自分も田舎育ちだし、重なるところがあるなと。生き方がかっこいいですよね。

 岩手出身の菊池にとって、野球を始めた原点を思い起こさせる瞬間が、そこにあった。最速155キロをマークし、脚光を浴びた甲子園。ベンチに全力疾走で戻る姿とともに、プロの舞台でも、勝負強さは変わらなかった。2位日本ハムとの差を2ゲームに広げ、混戦を極めた優勝争いから、1歩リード。チームの未来を担う若獅子が、その1歩を刻んだ。【久保賢吾】<昨オフからの雄星成長の跡>

 ◆体重増加

 オフは1日5~6食を義務づけ、83キロから90キロに増加。渡辺監督からはキャンプで「馬のケツみたい」と評された。

 ◆カーブ習得

 昨年のオーストラリアのウインターリーグで習得。緩急が有効に使え、投球の幅が広がった。

 ◆投球フォーム

 今季は上手投げに取り組んだが、シーズン途中に高校時代のスリークオーターに。投球フォームの悩みが消えた。

 ◆150キロ

 7月1日の日本ハム戦でプロ初の150キロをマーク。越えなければいけなかった壁を乗り越えた。