<ヤクルト11-20阪神>◇5日◇神宮

 この猛攻が長期ロードを逆転Vロードへと変えてくれるはずや!

 虎が今季最多20得点の猛攻で、死のロードとも呼ばれる夏場の踏ん張りどころに突入だ。猛打ショーの幕開けは新井貴浩内野手(37)の3年ぶりの満塁弾。クリーンアップのアーチそろい踏みに加え、球団記録にあと1と迫る23安打の猛打を呼び込んだ。敗れた巨人とは、1・5ゲーム差。もう首位の背中は目の前だ。

 初回2死満塁、いきなり試合の行方を左右する場面がきた。打席には新井。対したのはソフトバンクから移籍した2番手山中だった。先発八木は直前に負傷降板していた。左腕八木対策として3試合ぶりに先発起用されたが、右下手投げとの対決となった。対戦は2カ月前の交流戦までさかのぼる必要があった。

 「普通に打席に立った。やることは同じなんでね」

 「新顔」が相手でも普段通りだった。ファウル、空振りで追い込まれた後の5球目、内角寄りの速球を振りぬくと打球はバックスクリーン右へ。神宮の7割を埋めた虎党の願いを乗せて最前列に飛び込んだ。

 「久しぶりにボールがバットに乗った。打った瞬間手ごたえがあったよ」

 この後、クリーンアップの本塁打競演も生まれ、球団記録(24安打)にあと1と迫る23安打、今季最多20得点。打線大爆発を呼んだのは新井の1発だった。

 「チャンスだったのでどんどん振っていこうと思っていました。いい結果になってよかったです」

 球宴後、先発出場は3試合目だった。前回はゴメスの代役4番で4打数無安打3三振に終わっていた。それでも、限られた出番の中で代打を経験したからこそ学べたことがあるという。

 「1球の大切さというかな。スタメンでずっと出ていた頃は平気でストライクを見逃していた。今から考えると、もったいない」

 代打でも、スタメンでもすべての球を振りにいく。ベテランの域に達してから見つけたスタイル。新井の生き方とも重なっている。

 猛虎の攻撃は新井の“ひと声”から始まる。プレーボール前、相手投手が投球練習を始めるとベンチにどっしりと陣取った37歳が、まず声を張り上げる。

 「おーい!

 俺、今日予定が入っとるから、早く投げてくれ!」

 爆笑とともに、ベンチのムードが盛り上がる。そして攻撃へと向かっていく。気の利いた声で士気を高める“新井組”の一員である中堅選手はこう証言する。

 「新井さんのやじはマジで爆笑もんですよ。だってまだ投球練習中からやじってるんですから」

 プロ16年目、通算1800安打を放っている打者が控えという立場に腐るどころか、先頭に立ってやじを飛ばす。スタメンでも、ベンチでも、4打席でも、1打席でも、どんな境遇でも前向きに-。そこに周りを引っ張っていく力が生まれる。新井が打てば打線が爆発する。それは決して偶然ではない。【鈴木忠平】

 ▼新井の満塁本塁打は11年7月17日横浜戦(横浜)の8回1死で牛田から左翼へ放って以来、3年ぶり8本目。広島時代に6本、阪神では2本目。今季阪神の満塁弾は7月13日に代打関本が沢村から放って以来、2本目。