<阪神5-0広島>◇14日◇甲子園

 うーん勝負つよし!

 西岡をみんな待っていたんや!

 泥沼を清流に変える圧倒的な存在感。7回の代打適時三塁打で勝利をぐっと近づけると、関本、新井の先輩もいじくる天衣無縫さ。64年ぶり甲子園17失点の大敗で自力2位の可能性を失ったチームを奮い立たせた。2位浮上に、CS突破に、西岡がすみっこにいてはもったいない!

 敵の魂胆を見透かしていた西岡剛内野手(30)の勝ちだった。抜群の勝負脳が光ったのは7回だ。福留先制弾の後の2死二塁。メッセンジャーの代打で打席に立つと、広島外野陣がバックホームを見据えて定位置よりも前に動いたのが見えた。初球は外角低めに沈むボール球だ。2球目は内角チェンジアップ。さらに外角直球がストライクとコールされ、腹をくくった。

 「(次は)落ちてくる球が来るかと。うまく拾えて、うまく風に乗ってくれた。変化球ばかりやった。初球から引っかけさせたいのかなと。外野も前に来ていたし、真っすぐ系統が少なかった」

 追い込まれた4球目、読み通りの球が来た。低い姿勢で完璧にとらえ、右中間を真っ二つ。2点リードに広げる適時三塁打でガッツポーズだ。上本の三塁強襲打で自らも生還。今季、代打では8打数5安打、打率6割2分5厘と勝負強い救世主が白星を呼んだ。

 ベンチに戻るとクーラーの効いたロッカールームへ。広報にコメントを求められると同じ代打要員の関本、新井が近づいてきた。間髪入れずに言う。「あの当たりなら、セキさんならシングル、新井さんならツーベース。僕だからスリーベースになりました!」。切れ味鋭いジョークをかまし、喜びを分かち合った。1球勝負の代打の特殊さを肌で感じる日々。試合中は切り札の関本から声を掛けられる。「ちょっとアップに行こか」。見よう見まねで結果を出すから恐ろしい。

 置かれた立場で最善を尽くす。レギュラー時は試合前練習も早々にクラブハウスへ戻るが、いまは違う。内野でノックを受け終えると、練習終了直前まで外野で飛球を追う。「いいランニングになるから」。試合中はベンチの最前列で声を張り上げる。かつての主力は腐らず勝つために動く。

 「(13日に)ああいう負け方(大敗)をしたけど、1-0で負けるのも一緒。どんな試合をしても明日があるのは変わりない。立ち向かう姿勢でやっている」

 開幕直後の重傷で選手生命の危機にさらされた。明日さえ見えなかった男が語る言葉には、重みがある。西岡の復帰で「風」は変わりつつある。残り14戦。追い風で全力疾走し、スピードたっぷりに秋の陣へと向かいたい。【酒井俊作】