元プロレスラーの前田日明氏(59)が08年1月に不良の更生を目的に始めたのが、アマチュア総合格闘技大会の「THE OUTSIDER」だ。その10周年記念イベントが1月24日に東京・渋谷のLOFT9で行われた。

 会場で最初に上映された映画「タイトロープ」は、その大会に出場する若者たちの日常と、インタビュー、大会の様子などを追ったドキュメンタリー映画だった。「THE OUTOSIDER」に出場するのは、ほとんどが元暴走族や、犯罪を犯し更生施設や刑務所から戻った若者たち。彼らが総合格闘技に出合い、新たに目標を見つけそれに打ち込む様が、克明に描かれていた。

 前田氏は、海外で格闘技が若者の更生のために利用されていることを知り、日本でもやってみようと始めたという。「最初は、日本で真っ先に始めるとか、多少の山っ気もあって始めた。でも、試合に出てくる選手たちを見ていると、昔の自分を思い出す。そうすると、おせっかいを焼きたくなってね。何かできないかと」と、前田氏自身も、大会を続けながら参加する若者たちの成長に、継続することの大切さを教えられたという。

 「立ち上げた当時は、暴力団のしのぎに利用されているような地下格闘技と同じような目で見られた」というように、暴力団とのトラブルもあった。タイトロープの試写会が13年11月5日に六本木で行われたときは、暴力団から前田氏の殺害予告があり、会場は警察官の警備で、客がゼロということもあった。

 厳しい状況を乗り越えて「THE OUTSIDER」は10周年を迎えた。若者たちを取り巻く環境も、時代によって変わってきた。前田氏は「最初は、OUTSIDERに出る若者も何を不満にチャラチャラぐれているのかと思ったが、自分たちの世代とは違う悲しさ、例えばネグレクト。親がいても面倒を見てもらえないとか、世間や親子関係の希薄さの中で傷つき、行き詰まったそんな子がたくさんいる」と、現状を説明する。

 親から暴力を受けたり、育児放棄で愛情を得られなかった若者が、非行に走り他人を傷つける。一度は道を踏み外した若者が、OUTSIDERと出会い変わる。前田氏は「不良の更生を目標に始めたけど、今は参加者の中で不良は半分以下。いじめられっ子がいたり家庭内暴力をやっている子だったり。今の日本の縮図だね。OUTSIDERでは、それぞれ自分のペースで再生してくれれば」と参加者に温かい目を向ける。前田氏の取り組みを見て、スポーツの果たす役割の大切さをあらためて考えさせられた。【バトル担当=桝田朗】