5月6日、近年では最大級のボクシングイベントが東京ドームで開催される。スーパーバンタム級の世界主要4団体統一王者“モンスター”井上尚弥(大橋)と“悪童”ルイス・ネリ(メキシコ)の一戦をメインに日本選手の4大世界戦。海外にも負けないスケールの興行になるのだろう。

ボクシングはリング上で2人だけが拳をまじえて戦う。あまりに広い会場は観客にとって不向きな競技でもある。東京ドームでのボクシング興行は過去2度。開業初年度の1988年(昭63)3月、そして90年2月の2度。いずれもマイク・タイソン(米国)がメインイベンターを務めた。

井上尚が日本選手として初めて、東京ドームのメインを務める日本ボクシング界にとって歴史的な一戦。ただ歴史をひもとくと90年の東京ドーム、そして99年8月29日の京セラドーム大阪と2度、ドーム球場のリングに立った男がいる。元WBC世界バンタム級王者の“カリスマ”辰吉丈一郎(53)だ。

東京ドームはプロ2戦目。タイソンの前座でタイの選手を2回KOで打ちのめした。この時はまだ担当になる前で試合の認識は資料でしかない。ただ、担当記者として密着していた京セラドーム大阪の戦いは今も鮮烈な記憶が残る。

この年、1月に辰吉の父粂二さんが亡くなった。辰吉が98年末、ウィラポンに6回KO負けで王座を失った約1カ月後。男手ひとつで「人間・辰吉」を形成してくれた最愛の父に誓ったリベンジの舞台が、日本ボクシング史上初となる最高の形で用意された。

辰吉は粂二さんの全身を刺しゅうしたガウンをまとい、入場した。魂を背負って立ったリングだったが、結果は7回TKO負け。勢いに乗る新王者との差は厳しい現実だったが、死力を尽くして戦い抜く姿は見ている者の心を震えさせた。

「ドラマ」「劇的」という表現は安直かもしれない。ただ、いろんな伏線があるからこそ、ドームという大舞台のメインイベンターを担うことができる。

今回、東京ドームの主役たちも、あらゆる“伏線”が張り巡らせている。ドームを揺るがすほどのドラマが期待できる。

辰吉が京セラドーム大阪のリングに立ってから約25年。その魂は今に引き継がれていると感じる。【実藤健一】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける」)

公開練習前の会見でホワイトタイガーをイメージしたTシャツ姿でファイティングポーズする井上尚弥(2024年4月10日撮影)
公開練習前の会見でホワイトタイガーをイメージしたTシャツ姿でファイティングポーズする井上尚弥(2024年4月10日撮影)
ファイティングポーズするネリ(2024年4月21日撮影)
ファイティングポーズするネリ(2024年4月21日撮影)