雰囲気と話し方を見ていて「おやっ?」と思った。9月9日、新松戸のTEPPENジムで行われた那須川天心(21)の公開練習。同16日に、幕張メッセ・イベントホールで開催されるRISEワールドトーナメント決勝へ向けての、練習とインタビューの席だった。

実戦を見据えて多彩な攻撃を、わずか2分のミット打ちで那須川は披露した。そのあとの会見。おだやかな表情で、記者の質問に答えるときの那須川の目は、相手を包み込むような、余裕と自信をたたえていた。記者は他競技と掛け持ちで、6カ月ぶりぐらいの再会だったが、明らかに那須川は変わっていた。

会見では、格闘技界への危機感を語った。「全体的に意識が低いかな。現状に満足し過ぎている人が多いかなと思います。日本の格闘技がすごいと思いすぎている人が多い。今、日本人で外国でトップとやって勝てる人いないんです。もっともっと自分が世界に出て活躍したいとか、そういうことに気付いている選手が少ないでしょう」。

熱く語るわけではなく、淡々と、静かな語り口だが、その思いは強く伝わってきた。キックボクシングでプロデビューし、ガムシャラに頂点を目指してきた少年が、いつの間にか大人になっていた。というより、トップ中のトップ選手の風格、オーラを漂わせていた。総合格闘技のRIZINで名を上げ、地元ともいえるRISEで実績を積み上げてきた。両団体でトップに君臨する存在になって、那須川は自分のことだけでなく、自分が属する団体や競技の将来を考えるようになっていた。

それは試合にも出ていた。自身初の世界一の座を懸けた志朗との決勝で、那須川は3回3-0の判定勝ちを収めた。派手なKOや決定打はほぼなかったが、終始相手に圧力をかけ、相手にはほとんど打たれない完璧な試合運びだった。試合後、那須川の顔は、腫れやアザが全くなく、きれいなままだった。

「今までにない、頭を使った試合だった。志朗君は、すごく研究して、その対策を最後まで貫いた。強い選手だった。今は、ジャイアントキリングブームで、それをさせないように戦った。盛り上がっているときに、ぱっといってやられるのが一番ダメなパターンだから。最後、やっぱり主人公が勝つというストーリーが見せられた」と那須川は胸を張った。

那須川の前の試合で、61キロ以下級で優勝した白鳥大珠(23)も、ワールドシリーズを通じて成長し、トップスターの仲間入りを果たした。16日のRISE大会は、2人の若者の成長を目の前で見られた貴重な大会だった。【桝田朗】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)

16日、志朗を下しポーズを決める那須川(撮影・中島郁夫)
16日、志朗を下しポーズを決める那須川(撮影・中島郁夫)