ボクシング3階級制覇王者のWBA・IBF世界バンタム級王者井上尚弥(26=大橋)が7日、さいたまスーパーアリーナで5階級制覇王者のWBA世界同級スーパー王者ノニト・ドネア(36=フィリピン)とのワールド・ボクシング・スーパーシリーズ(WBSS)決勝のリングに立つ。日本のモンスターVS軽量級のレジェンド。世界から注目され、日本ボクシング史に残るであろう究極の一戦となる。階級最強を決めるトーナメントのファイナルに向け、井上からは心地よい「ピリピリ感」が漂っている。

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5月の準決勝前と今回の決勝前。同じように井上には緊張感が漂っている。しかし、その「質」は大きく違うようだ。

英グラスゴーでのIBF世界同級王者エマヌエル・ロドリゲス(プエルトリコ)戦に向けた日本での公開練習は1部分が非公開になった。前日計量後のインタビューもWBSS公式のみに限定された。ボクシング専門誌に掲載されたインタビューで、ロドリゲス陣営が合宿地を非公開とした。さらに同陣営からはスパーリングパートナーに日本人を呼びたいとするコメントもあり、井上は「日本人とは、誰がパートナーをやるのですかね」と気にしていた。対戦相手の秘密主義ぶりに、神経をとがらせざるを得ない状況となっていた。

グラスゴー入り後の公開練習時、ロドリゲス陣営から井上の父真吾トレーナー(48)が挑発に近いような言動を受けた。試合後に和解したものの、決戦のリングまでは、ピリピリしたムードだった。ドネア戦前も、同じく公開練習は一部分が非公開に。前日計量後もWBSS公式インタビュー以外は取材を受けることなく会場を去ったが、今回はいずれも体調面を配慮した所属ジムの大橋秀行会長(54)の発案だった。

ロドリゲス戦は本人、そしてドネア戦は「大事な試合だからこそ、ご理解ください」という師匠の意向。ピリピリ感の「質」の違いは、これが理由なのだ。

井上は言う。

「ロドリゲス戦のナーバスさというのは、向こうの状況が一切なかったというところですね。だから、こちらも一切、情報を出したくなかったという感じでした。あとは日本ではなく、グラスゴーだったということですかね。ドネアに関しては、今さら情報も何もって感じではないですか。リングに上がって調子が良い方、運をつかんだ方が勝つと思います」。

もはや井上尚とドネアには因縁や挑発は必要ない。ボクシングファンならば、誰もが注目してしまう対決だ。2万人以上が集結するさいたまスーパーアリーナ。チケットは完売で、当日券もない。フジテレビが生中継、NHKでもBS8Kで生中継される。地上波ではないものの、NHKのボクシング中継は約60年ぶり。さらにWOWOWの録画中継も発表されている。異例の放送体制となる。

「こういう期待、注目からくるプレッシャーはプロとしてうれしいです」と井上尚。そして、こう続けた。

「こういったプレッシャーは大好物なんで」。

判定決着は想像しにくい。一撃必殺のパンチ力を持つ3階級制覇王者井上尚-5階級制覇王者ドネアのファイト。「自分が何が求められているか重々承知しています」とも言い切るモンスターが、バンタム級頂上決戦に臨む。手にすれば世界で4人目となる階級最強を証明するアリ・トロフィーも懸けた2団体統一戦。そのゴングは今夜、鳴る。【藤中栄二】