三沢光晴社長(42)は、旗揚げ5周年を迎える05年も、ノアのかじ取りに絶対の自信を見せる。昨年は初の東京ドーム興行を成功させたが、あくまでも目指すのは拡大戦略ではなく堅実路線。ブームの総合格闘技や本場米国のWWEも、ばっさりと斬(き)った。ファンの視線に立ってプロレス界を突っ走る三沢ノア。独自の道を進むノアの三沢社長に迫る。

 三沢は表情1つ変えなかった。PRIDE、K-1など盛り上がる総合格闘技ブーム。昨年の大みそかも社会現象まで起こした。それでも、三沢は動じない。それどころか、自信たっぷりに言い放った。

 三沢

 大みそかぐらい、みんなゆっくりしようよ。オレもちょこちょこテレビでは見たけどね。同じようにやっていくつもりはないし、何かやろうって考えもない。オレは2番せんじが大っ嫌いだから。ウチはウチでほかにやれることがある。クリスマスはイベントやってるけどね。

 2月にはWWEが日本に上陸する。本場プロレスの来襲に危機感を持つ関係者もいるが、こちらもまったく眼中にない。リング上の戦いに徹することに、絶対的な自信を持っている。

 三沢

 見たい人が見に行けばいいよ。別にジャンジャン来てもらって構わないんじゃないか。ほかの団体にとやかくいう立場にもないでしょ。危機感も何も、オレたちがやってるものとは違うものだから。対抗しようという気もないな。

 安定した集客力を誇るノア。昨年7月に初めて開催した東京ドーム大会では、5万8000人の観衆を集めた。有明コロシアム、日本武道館と着実に集客力を伸ばし、04年は大きく飛躍した年になった。しかし、それでも三沢は「拡大路線」に背中を向け続ける。

 三沢

 うまくいってるように見えるんだろうけど、水鳥と一緒。見えないとこじゃ大変なんだ。大きい興行は、時期が来ればやってみたいと思わなくても道は開けてくるし、見えるはずだよ。臨機応変に対応する判断力がなくなったら、この世界生き残れない。耐えるときは耐える。攻めると言ったって無鉄砲に突進するのとは違うんだ。

 00年の旗揚げ当初は、後楽園ホールのスケジュール確保も困難だった。土日開催ができるようになった2年目から軌道に乗り、純粋にプロレスを楽しむファンを多く取り込んだ。話題性や演出だけでは生き残れない。堅実に、ひたすら肉体だけを武器にした戦いを見せる。反則や大流血、遺恨試合といったプロレス的な装飾は一切ない。大会場で華やかなイベントを目指すのではなく、技術の高いプロレスを見せることでファンの要求に応えてきた。過度な演出や、リング外のドラマには今後も頼らない。

 三沢

 社長としてどの方向にノアを持っていこうというプランはないな。具体案は今すぐ出なくても、5分後に出るかもしれない。自分に決断力とひらめきがある限り、ノアは前進できると思ってるよ。ありがたいことにウチはお客さんが見にきてくれてる。視線はいつもファンに向いていないと。

 GHCヘビーV13の絶対王者小橋は、1年10カ月ベルトを保持し続ける。三沢は小川と組んでタッグ王者に君臨し、海外で防衛も果たした。ジュニアのイケメンタッグの丸藤、KENTA組は負け知らずのV9を達成。王者の強さが、ノアの強さの原動力でもある。今後は力皇の急成長、天龍、鈴木みのるら外敵の参戦もあって、ますます目が離せない展開が続く。

 三沢

 選手1人ひとりがリング上で責任持ってやってくれてるから今がある。第1試合からメーンまで、役割をみんながしっかりこなしてくれている。5周年といわれても、もう5年かという感じ。よくここまでやってきたと思う。現状に満足しているわけじゃないから、まだまだだけど。

 経営者として無欲に、トップレスラーとしてどん欲に。周囲を意識せずに独自のプロレス道をひたすら突き進む。三沢が確信を持って箱舟を引っ張る限り、ノアの未来は輝き続ける。(2005年1月22日付紙面から)