<プロボクシング:WBO世界スーパーフライ級タイトルマッチ12回戦>◇30日◇東京体育館

 井上尚弥(21=大橋)が、王者オマール・ナルバエス(39=アルゼンチン)に2回3分1秒でKO勝ちし、世界最速のプロ8戦目で2階級制覇を達成した。約12年間世界王座に君臨し、通算27度の防衛を誇る最強王者から4度のダウンを奪い豪快に決めた。4月に国内最速6戦目で世界王座を奪取してからわずか9カ月。「怪物」がまたしても世界を驚かせた。具志堅用高氏の持つ連続防衛記録更新を目標に掲げ、長期政権への第1歩を踏み出した。

 「怪物」はとんでもない「怪物」だった。井上はゴング直後の1発目のパンチにすべてをかけていた。「最初に強いパンチを打ち込んで警戒させたかった」。頭の上からたたき付ける顔面への右オーバーハンド。試合後に相手陣営から「何か入っているのでは」と拳の確認を求められるほどのパンチ力で、試合を支配した。プロ46戦で1度もダウンを喫したことがないナルバエスの足元を揺らすと、続けざまに同じ右で倒した。

 その後は一気に攻め抜いた。2回、最後は腹に突き刺すような左ボディー。12年間世界王座に君臨してきた伝説の王者の心を完全にへし折った。6分間に4度のダウンを奪い、鮮やかに「世代交代」を果たすと、リング上で喜びを爆発。ライトフライ級に続く2階級制覇を果たし「1発目でパンチの乗りが違った。不安もあったが若さと勢いでいこうと思った。本来の力が見せられた」。目を輝かせて勝利の味をかみしめた。

 「強い相手としか戦わない」という条件で飛び込んだプロの世界。「怪物」の異名通りのスピードで駆け上がった。今年4月にわずか6戦目で世界王座を奪取。「世界王者」として多くの称賛も受けた。だが、時間とともに違和感も膨らんだ。日本も13年4月にWBO、IBFを承認。1階級に4人の世界王者がいる状況に「本当に世界一なのかな」とつぶやいたこともあった。

 約10キロにおよぶ減量苦を理由にライトフライ級(48・9キロ)に別れを告げ、「適性階級」と語るスーパーフライ級(52・1キロ)で長期防衛を目指すことを決めた。転級初戦での世界戦、しかもナルバエスを相手にした試合には「無謀」「まだ早い」など厳しい声も飛んだ。それでも、父真吾トレーナーはきっぱりと言った。「漫画じゃないし、全勝とかにこだわりはない。トーナメントでも勝てば次は強い相手がくる。負けたらまた練習すればいい」。5歳から二人三脚でやってきた親子の、変わることのない思いだった。

 今年の年末2日間は、国内で8試合もの世界戦が集中した。クリスマス以降で世界戦が開催されたのは日本だけ。世界が注目する舞台で、「INOUE」を鮮烈にアピールした。具志堅用高氏の13度の防衛記録を更新するという大きな目標もある。「強い相手と戦いたい」。真っすぐな思いで、ここまできた。【奥山将志】

 ◆井上尚弥(いのうえ・なおや)1993年(平5)4月10日、神奈川・座間市生まれ。小1でボクシングを始め、相模原青陵高1年でインターハイ、国体、選抜の3冠達成。アマ通算75勝(48KO)6敗で7冠。163センチの右ボクサーファイター。両親、姉、弟の5人家族。