角界屈指の業師に慢心はない。東十両10枚目の宇良(28=木瀬)が自主練習となった7日の朝稽古後、報道陣の電話取材に応じた。何度も口にしたのは「不安」の2文字。慎重を期して、関取復帰2場所目となる3日後に迫った大相撲初場所(1月10日初日、東京・両国国技館)に臨む。

ここまでの仕上がりは「良くないんじゃないですか」、不満があるかについては「ちょっと不安しかない」、それは膝か? の問い掛けには「全部です」、先場所は9勝を挙げたが「不安は変わらない」、自信より不安? の声には「不安しかない」、幕内を目指す気持ちは「視野に入ってはいない」-。3年半前には前頭4枚目まで番付を上げたが、膝の負傷で休場が続き三段目まで番付を落とした。同じ轍(てつ)は踏むまいという、宇良流の思いが「不安」の2文字や、いっけんネガティブにとらえられがちな言葉に表れた。

ただ、周囲は心配する必要はなさそうだ。ここまで、部屋の関取衆との稽古はもちろん、相撲を取る稽古もしていないが、それはいつものペースだという。16場所ぶりの関取復帰となった先場所、宇良の代名詞ともいえる反り技の「居反り」も繰り出し、後ろもたれという珍手でも白星を挙げた。「(技を)見せる相撲を取りたいという気持ちはないけど、来るべき時が来たら出す感じですね」と話すように、相撲の感性は体が覚えているということだろう。

不安なコロナ禍は「このご時世、いつどこでかかるか分からない。誰が悪いとか、そういうことではないと思う」と、こればかりは希代の業師でもコントロールできない。そんな気の抜けない中でも、年末年始のつかの間の休息は、時間があるときは自己啓発本を読み、「砂糖しょうゆがいちばん好き」という切り餅をほおばりながら過ごした。「膝の安定感を増していくこと。ほとんど今は、そればかりに集中してやっています」。現状の課題もしっかり見据えながら、戦いの場に身を委ねる。