日本相撲協会は14日、元関脇琴勇輝(30=佐渡ケ嶽)の引退と年寄「君ケ浜」襲名を承認した。西幕下筆頭だった春場所は全休していた。

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幕下琴勇輝(佐渡ケ嶽)が引退を決めた。思い出すのは今から6年前の春場所。その場所前の力士会で、横綱白鵬に2人の幕内力士が「せき払い、やめろ! 犬じゃないんだから、ほえるな!」と全関取の前で叱責(しっせき)された。琴勇輝と千代鳳に対してのものだった。2人は気合を入れるため、最後の仕切りで「ホゥッ!」と声を発するのがルーティンだった。それに対し、白鵬が気合入れの“発声禁止令”を出した。「土俵の美」を守るという白鵬なりの主張でもあった。

場所前から注目されていた、その初日。千代鳳は当時の師匠の九重親方(元横綱千代の富士、故人)の指摘もあり自粛した。琴勇輝も場所前の取材から迷いがあるようだったが「三段目時代から気合を入れる動作。意識的な受け狙いのパフォーマンスでなく自分の中のリズム、あくまでも気合。そこだけは分かってほしい」と、ルーティンを貫き「ホゥッ!」と気合の声を発した。

黒星を喫した取組後の支度部屋。「自分の信念を曲げるぐらいならマゲを落としてもいい、ぐらいの覚悟があったか」と問われると「ありました」と即答した。会場の大阪のファンから「声を出したっていいんだぞ!」「そうだ、そうだ!」の声が飛んだ異様な空気の中、「花道を入場する時に『ホーホー、ホーホー』言われた」と苦笑い。そんな琴勇輝を、千代鳳は「琴勇輝関は男前です。俺は怖くて出来ない。(琴勇輝に)申し訳ない。かっこいいな、琴勇輝さんは…」と、羨望(せんぼう)のまなざしを送っていた。【渡辺佳彦】