大相撲の横綱審議委員会(横審)は19日、都内で定例会を開き、名古屋場所で14勝1敗の優勝次点となる成績を残した大関照ノ富士(29=伊勢ケ浜)を、満場一致で横綱に推挙した。21日の臨時理事会と秋場所番付編成会議で、第73代横綱に正式に昇進する。一方で横審委員からは“白鵬批判”が相次ぎ、照ノ富士に「白鵬のようにはなって欲しくない」と「品格ある横綱」へ期待する意見も出た。

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浮かれる様子は全くなかった。昇進が事実上、決まっている照ノ富士はリモートでの会見に臨み「まだ決まったわけじゃないので、まだそういう感情はない」と一言。表情に喜び、安心といった感情を一切出さなかった。

推挙を決めた横審委員からは、絶賛の嵐だった。矢野弘典委員長(産業雇用安定センター会長)は「ケガで序二段まで落ちたわけですが、奇跡といわれる復活を遂げたのは長い相撲の歴史でも特筆に値するもの。近頃まれになった言葉に根性、辛抱、我慢、不屈の精神、節制、といった言葉があるけど、それらをほうふつさせるものがあった」と賛辞の言葉を並べた。矢野委員長の評価を受けて、照ノ富士も「磨いて頑張ってきたことで、ちょっとでも皆さんがそういう思いになってくれることがありがたい」と感謝した。

“反面教師”を期待する声も多い。千秋楽で荒々しい取り口を見せるなどした白鵬について、この日出席した横審委員からは苦言が止まらなかった。杉田亮毅氏(日本経済新聞元社長)のように「白鵬の力強さに学びつつ、マナーの点はまねをしないで」と、相撲の実力を認めつつ白鵬を引き合いに出す委員もいれば、山内昌之氏(東大名誉教授)は「白鵬のようにはなって欲しくないですね。大谷翔平のように誰にも憧れられる横綱に」と、ストレートな言葉で照ノ富士に期待を込めた。

何はともあれ、21日には横綱昇進が正式に決定する。伝達式で述べる口上について照ノ富士は、師匠の伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士)とおかみさんと相談して決めることを明かした。憧れ続けた横綱の地位。「改めて横綱がどんな地位か、どんな生き方をするべきか考えて(口上を)うまく形にできれば」。照ノ富士の相撲道は、復活劇からいよいよ新章に突入する。【佐藤礼征】

○…白鵬の横綱としての品格に、横審からは批判が集まった。14日目の正代戦では仕切り線から大きく下がって立ち合い、張り手を連発。千秋楽の照ノ富士戦では、立ち合いで右のかち上げを浴びせて勝った際に土俵上でガッツポーズした。矢野委員長は「実に見苦しいと思いました。大相撲が廃れていくという深い懸念をみんなで共有した」とばっさり。山内委員は「14(日目)、15(千秋楽)はもうあり得ない。最低のレベルの相撲。終わった後のガッツポーズとか雄たけびとか鬼の表情とか。あれはなんだい。全然問題外でしょ」と厳しく批判した。一方、昨年11月場所後の定例会で白鵬に対して出して「注意」の決議は取り下げることで決定した。