若隆景(27=荒汐)が、再び優勝争いのトップに並んだ。大関貴景勝との激しい攻防を寄り切りで制し、12勝目をあげた。前日に単独トップの東前頭7枚目の高安は、大関正代のすくい投げに敗れた。3敗を守った西前頭6枚目の琴ノ若を含め、いずれも初優勝の3力士が可能性を持って千秋楽に向かう。

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正代の「これしかない」という形の前に、高安が痛恨の黒星をつけられました。高安の最初の敗因は立ち合い、左の前まわし狙いのため当たらなかったことです。高安の魅力、怖さは立ち合い1発の当たりです。これがないから上手こそ与えたものの正代も右が入りました。正代からすれば同じ腰高の相手は差せるから取りやすい、差せれば何とかなると感じているはずです。さらに高安が前に出る腰も高く、差されているから余計に逆転の投げを食う要素はありました。立ち合いの当たり、腰高の寄り、正代に差されてしまったことと敗因はいくらでもありました。

一方の若隆景には運を感じました。立ち合いから一気に押し込まれて詰まった土俵際、若隆景は足を滑らせたのか前のめりになりました。この体勢に貴景勝は「残られた」と思い込んでしまったのでしょう。すぐにひいてしまいました。これで形勢は一気に逆転しました。今場所乗っている若隆景には、流れを自分に持ち込める「運」があったように思います。

さて千秋楽です。高安は阿炎、若隆景は正代と、ともに一癖も二癖もある、やりにくい相手です。ただ、優勝決定ともえ戦の可能性も残す琴ノ若も含め、優勝の可能性がある3人は全員、優勝未経験なので過度なプレッシャーはないと思います。持てる力を残すことなく振り絞って、3年ぶりの有観客開催となった大阪のファンを喜ばせて締めくくってほしいですね。(元横綱若乃花 花田虎上・日刊スポーツ評論家)