だれが優勝するか分からない。ならば道産子力士31年ぶりもあるか。西前頭15枚目の一山本(28=放駒)が千代翔馬を突き出し、7勝2敗と勝ち越しに王手をかけた。大鵬、北の湖、千代の富士ら大横綱を輩出し隆盛を誇った北海道出身力士も幕内は現在、一山本だけ。優勝すれば91年春場所の横綱北勝海(八角理事長)以来となる。2敗は平幕4人、3敗も横綱照ノ富士ら5人の大混戦で一発を狙う。

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「一道産子」の一山本が優勝争いのトップを死守した。くせ者の千代翔馬を立ち合いから圧倒。突き出してまずは勝ち越しに王手をかけた。「(腕を)たぐられそうになったが我慢して前に出ることができた。よかったと思う」と言った。

かつては「お相撲さん」といえば北海道だった。大鵬、北の富士、北の湖、千代の富士に北勝海。北の大地は多くの横綱を生み出した。出身地別の優勝回数もダントツの120回。しかし、91年春場所の北勝海以来、賜杯から遠ざかる。

一山本は北海道岩内町に生まれた。中大を卒業後は福島町の役場に就職。しかし、相撲への思いを捨てきれず、母の猛反対も押し切っての角界入りという異色の経歴を持つ。幕内は4場所目。優勝争いに絡むことなどなかった。それだけに「今まで(千秋楽)7勝7敗しか幕内で勝ち越していない。早く勝ち越したい」と現実的な目標を掲げた。

以前も北海道出身力士が優勝から遠ざかっている話題が出た。その時も「もう全然そんな僕、顔じゃないんで」と恐縮するしかなかった。しかし、地元から観光大使の依頼を受けるなど“顔”になりつつある。道産子代表として、このまま優勝争いに絡み続けたい。

前師匠、元大関若嶋津の荒磯親方の長女で女優のアイリがNHKでゲスト解説を務めた時、「いつもニコニコ笑っているんです」と明かした。前向きで明るい性格は「戦国場所」を勝ち抜く武器となるか。北海道民の期待も背負い、残り6日間に挑む。【実藤健一】

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