番付の重みを示した。大関とりの関脇琴ノ若(26=佐渡ケ嶽)が、新入幕の西前頭15枚目大の里(23)との1敗対決を制した。

中盤戦を終えて9勝1敗。同じく1敗だった前頭阿武咲も敗れ、優勝争いの単独トップに立った。新入幕として110年ぶり、ざんばら髪として史上初の優勝が期待される大の里に完勝。何もさせずに寄り切った。祖父は、自身が9歳の時に亡くなった元横綱琴桜。故人と大関昇進で受け継ぐことを約束した、しこ名「琴桜」を襲名する日が現実味を帯びてきた。

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心、技、体、全てで圧倒した。琴ノ若は、土俵から落ちた大の里を見ながら仁王立ちしていた。大関昇進が懸かる関脇と、新入幕の西前頭15枚目。負ければ昇進の機運に水を差されかねない、リスクの大きな取組を完勝した。「落ち着いていけた。自分のやるべきことをやって、出し切った。まげを結っていようが、ざんばらだろうが、土俵に上がったら関係ない」。取組後も表情を崩さなかった。

近い将来、横綱や大関の看板力士に成長すると予想される、2人のライバル物語の始まりだった。立ち合いでもろ差しになると、体を密着させた。189センチ、177キロの自身よりも、身長は3センチ、体重は6キロ大きな大の里に何もさせずに寄り切ると、勢い余って相手は土俵下まで落ちた。「これから上に上がってくると思う。ただ、誰が相手だろうが、どの位置だろうが負けられないのは一緒。強い気持ちで臨んだ」。心の充実から、技も体もキレが増していた。

父の佐渡ケ嶽親方(元関脇琴ノ若)が師匠を務める部屋は64年九州場所から幕内力士が在籍し続ける名門だ。琴ノ若がはっきりと記憶しているだけでも、琴光喜、琴欧洲、琴奨菊と、多くの大関を輩出している。思い出されるのは、部屋の「大関」の木札の後ろに、それらの歴代大関のしこ名があった光景。だが17年春場所で、琴奨菊が陥落して以降「大関」の木札の後ろにしこ名が続くことはなかった。だからこそ琴ノ若は「自分にハッパをかけるために見る」と、稽古中、その場所を意図的に見ては、気持ちを高ぶらせてきた。

そんな部屋での古い記憶の1つが、先代佐渡ケ嶽親方の祖父、元琴桜との約束だ。「僕はいつになったら大パパのしこ名をもらえるの?」。そう祖父にたずねると「大関になったらいいぞ」とほほ笑みながら言われた。約束の日が、近づいてきた。

大関昇進目安は三役で3場所33勝。琴ノ若は、いずれも関脇だった先場所までの2場所で計20勝。数字上は13勝が必要だが、昨年は全6場所を三役で勝ち越した安定感はすでに大関級。単独トップに立っても優勝は「後からついてくるもの。今、星数を気にしても仕方ない」ときっぱり。無欲の先に、初優勝に花を添える大関昇進が見えてくる。【高田文太】