女性アイドルグループはAKB48が一大ブームを築き、今や日本の芸能文化の1ジャンルに定着した。女優やモデル、歌手など、夢や目的をかなえるステップにする時代から、最近はアイドルになること自体が夢だったというアイドルも増えてきた。

近年、特に48グループの若手メンバーを取材していると感じるのが、楽曲やメンバーのことを本当によく知っているということだ。同じグループに推しメンがいるメンバーが大半だし、中には推しメンの握手会に行ったり、ファン顔負けの知識を持つ子もいる。アイドル文化が成熟期を迎えた感もあるが、そんな時代にも、こんなことを言う子がいるからおもしろい。

「私、アイドルというものを知らなくて入ったんですよね。どうやって笑ったらいいかとかも、正直分からなくて」

何とも味気ない発言に、驚いた記憶がある。昨年12月、瀬戸内を拠点とするSTU48の矢野帆夏(19)を初めて取材したときの言葉だった。小さいころから合唱やバレーボールなどに打ち込み、広島出身らしく、大のカープファン。ダンスの経験もあったが、少なくともアイドルとは無縁の人生だった。

そんな矢野がアイドルになったきっかけは、母の勧めだったという。「勝手に…というか、お母さんが応募してくれて(笑い)」。地元にSTU48が結成されるのを機に、オーディションを受けた。当時はAKB48グループのメンバーや曲もあまり知らなかったという。そんな子が、オーディションに合格して、アイドルになるのだから、人生は分からないものだ。

あの発言から9カ月、矢野を久々に取材する機会があった。9月8日に大阪で行われた、チャリティーコンサートツアーを取材に訪れた時だった。6、7月に広島や四国など、グループが拠点とする各地が被害を受けた西日本豪雨災害の支援活動の一環。広島に生まれ育った矢野も心を痛めたようで、1つの決意を語ってくれた。

「実は最初は、アイドルになった理由を探しながら活動している感じだったんです。だけど、今回のような豪雨災害があったり、困っている方がいると、私はこのために入ったのかなと思うようになりました。それが正解なのか、分からないんですけどね(笑い)」

使命とか、運命なんて言ったら大げさかもしれないが、この9カ月で、矢野がステージにいる意味を知ったことは確かだ。人を笑顔にするには、まず自分から-そう言わんばかりに、この日はうれしそうに目を細め、ファンに笑顔を見せていた。たまに電池切れ? で真顔になっていることはあるけれど、それはご愛嬌(あいきょう)で。

「誰よりも輝く女の子になりたい」、「憧れの前田敦子さんみたいなアイドルになりたい」、「指原莉乃さんみたいに、おもしろいアイドルになりたい」。アイドルになりたい理由は、人それぞれだ。アイドルになった意味に気付く、矢野のような女性もいる。9カ月で大きな心境の変化を見せた19歳の少女が、次に会う時にどう変わっているのか、楽しみだ。