フォトジェニックとはこういうことなのか。取材翌日の新聞に掲載された写真を見てつくづく思った。

 歌手、女優として息の長い人気を保つジェーン・バーキン(70)のことである。6年ぶりの来日公演を前にインタビューする機会があったのだが、写真撮影のときは、よく言えば自然流、ようはテキトーな感じがちょっと心配で、これほどの仕上がりは想像できなかった。

 都内のホテルの一室で予定時間から待つこと30分。バーキンは白いTシャツにジーンズ、スニーカーというシンプルを極めたスタイルで現れた。

 肩までの髪には、シャワー上がりを乾かしたばかりのような乱れが残っている。スニーカーのひもはやや不器用に結ばれ、ジーンズのロールアップもざっくりしている。自由人ぶりが文字通り徹底している。

 失礼かもしれないが、美しいというよりかわいらしいと言った方がしっくりくる雰囲気である。「これが生身のバーキンか」とある意味、感服した。

 取材は写真撮影から始まった。「腰が痛いから右膝は曲げたままでいいかしら」。年齢を思い出させる言葉が出る。ハリウッド女優なら専属メーク係がいて入念なチェックを行うところだが、彼女の場合はそんな専門スタッフはおらず、こんな局面でもサンダル履きで少しだけおなかの出た男性マネジャーが前に出る。

 「ちょっと待てよ」と乱れの残った前髪を右手でつまむようにしながらさらにクシャクシャッとやる。「ほら、この方が彼女らしいだろ」と私とカメラマンを見る。肯くしかない。

 立ちポーズを数カット撮った後、今度は着席をお願いする。と、「ちょっと待って」と、また男性マネジャーが割り込んでくる。イスをどかしてテーブルを持ってくると、「この上に座って。な、この方が彼女らしいだろ」という。繊細なはずのメークから、力仕事まで息も乱さずにちゃっちゃとこなすサンダル履きにちょっと感心する。

 あらためて、まじまじと彼女の顔を見ると、どうやらノーメークのようだ。少なくともそう見える。撮影後、本人もマネジャーも写真チェックをしようというそぶりも見せない。信頼されているようでうれしいのだが、デジタル撮影が主流になってからは「その場チェック」が当たり前だから、2人の無頓着ぶりがかえって心配になる。

 運転免許証などの証明写真で、「こんなはずじゃなかった」と思われる方は少なくないはずだ。写真と実物には明らかな「誤差」がある。シャッターのタイミングがベストの表情からずれるという基本的なものは別にして、どうしても光の加減や角度の微妙な差が生じて「あるがまま」に撮ることはなかなか難しい。

 その「差」を埋めるためにプロのモデルや女優が意識するのがメークと照明の度合いで、これをおざなりにすると写真は「現物以下」の仕上がりとなってしまう。だから、翌日の新聞が心配で仕方がなかった。

 結論を言えば、掲載された写真はキラキラしていた。テキトーに思えた崩し方はなべて「適度」にかっこよく、しっかりとバーキン流に収まっていた。

 脇から見ていた私と違い、実際にファインダーをのぞいていたカメラマンの笑顔に妙な達成感が漂っていたのを思い出す。

 彼女に由来するエルメスのバッグ「バーキン」は、手入れをするというよりは、使い込むことで味が出るという。半世紀にわたって一線で活動し、さりげなさの中にしっかりと味を出す姿に重なる気がした。【相原斎】