終盤に象徴的な映像が挿入される。ホワイトハウスでの歓迎会に当時のオバマ大統領が登場。「ほとんど20年間、このグループはキューバ人とアメリカ人の強い絆のシンボルでした。私も20年前、CDを買って聞きました。アプリで音楽を聞く諸君にはピンと来ないかもしれないが」と若いスタッフたちに語りかける。

 グループは「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ」。CDはライ・クーダーが97年にプロデュースした同名タイトルのアルバムだ。このアルバムは900万枚を売り上げ、グラミー賞にも輝いた。

 ヴィム・ヴェンダース監督が彼らのドキュメンタリー映画を撮り、日本公開されたのは2000年のことだ。彼らの存在を知ったのは映画を見てからだが、伝統の「ソン」のうねるような響きに一発でやられた。オバマ大統領と同じく、CDも買った。

 ヴェンダース監督が製作総指揮にまわり、「津波そして桜」(11年)などで知られるルーシー・ウォーカーさんが監督した「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス」(20日公開)は20年後の彼らにスポットを当てている。

 冒頭で書いた歓迎会は、最後の世界ツアーで開催されたホワイトハウスでの特別コンサートを前にしたひと幕である。

 オリジナル作品が撮影された97年当時でも、90代のギタリストを筆頭にメンバーは超ベテランぞろいだった。亡くなった人も少なくない。残った人にもさらなる年季が入っている。孫世代の新規メンバーを加えたツアーの表裏は懐かしく、ちょっと寂しい。

 前作では若々しく見えた歌姫オマーラ・ポルトゥオンドも79歳。今回も味わい深い声を披露するが、時折足元に不安を感じさせる。リハーサル中の音合わせが微妙にうまくいかず、メンバーそれぞれが我を通して中断してしまう場面もある。

 全体に漂うおおらかさ、楽器が体の一部になったような熟練ぶりには前作同様の気持ちよさがあるが、ところどころに「老い」が忍び寄り、ほころびとなる。これもドキュメンタリーの味わいなのだろう。

 14年にはオバマ氏が現職大統領としては88年ぶりにキューバを訪問。両国の対立が氷解した。2作はこの歴史的出来事を挟んで、ドキュメンタリーとしての価値をより高めている。

 「こんなに簡単に入れるんだ」。ホワイトハウスの検問で歌姫オマーラがもらすつぶやきが心に残る。一方で、キューバの街ではいまだにクラシックなアメ車が走る。20年前の風景が挿入されたのかと勘違いするほどだ。

 変わるもの、変わらないもの…そして、時折のぞくメンバーの老いといつもの温かさ。2作にまたがる時間軸に人生と歴史の重なりが見えてくる。【相原斎】

「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス」の1場面 (C)2017 Broad Green Pictures LLC
「ブエナ・ビスタ・ソシアル・クラブ★アディオス」の1場面 (C)2017 Broad Green Pictures LLC